2011年9月17日土曜日

ライトグリーンの故国

愛を
解いて茅の野
マジ、
古井戸残し雛菊の
ピアス
ふつふつ
湧く黒豹の現在完了
流行りの
邦画
見に新橋辺に
行く暇を惜しみ
舟で行く
舟で行く
針抱く
銀髪の乙女
生んでからの
胡瓜
和瓜
透けるまで
しばらくはライトグリーンの
故国

ぼく



自由詩にはむかない
にっぽん語と

ぴちゃぴちゃ

浅い水たまりで
幼あそび

ぴちゃぴちゃ

定型詩にもむかない
にっぽん語と

   ぴちゃぴちゃ

まだ肌ざむい無人の荒地でふたり
たったふたりで

ぴちゃぴちゃ

そこにしかない水たまりで
ごわごわした服だけ

   ぴちゃぴちゃ

ざくっという感じで着て
戦場を逃げ出してきた子みたいに

   ぴちゃぴちゃ

まだ人生の外にいる少年みたいに
名も知らない小さな

   ぴちゃぴちゃ

むらさきやあおやちょっとあかいのや
雑草の花をむぞうさに摘んで

   ぴちゃぴちゃ

でも
ていねいにまとめて

   ぴちゃぴちゃ

だれかすてきなひとに捧げたいと
胸に握りしめて

   ぴちゃぴちゃ

ときどきの風に身をすくめ
こころも震わして

ぴちゃぴちゃ

ぴちゃぴちゃ

大きな大きな土や石や岩や天空の
さなかにいる

ぼく

ウラヌスは今宵も




ウラヌスは今宵も
大きくガイアにかぶさり
あきもせず創世の
神話を作り直している

ニュクスもエレボスも
ウラヌスとともに
西に去ったヘメラを
惜しんでいるのか
あすふたたびの
ヘメラを待っているのか

アイテルは
戻ってくるのか
ヘメラと
それともエレボスや
タルタロスを抜けた心にのみ
沁み入ってくるのか

どの今日にあっても


まだ心臓がよく動いてくれている
おかげでいろいろ経験ができる
他の臓器もまだまだいける
いい調子ってわけだ
オーケー
つまり最高ってこと
今日のところ

あれこれ言うが
結論はとうに出ている
じつをいえば
問題は解決してしまっている
もちろん夢を語ったり
欲望をワンセット揃えていたり
不平不満もたらたら
でもそんなのは
ちょっとした冗談
日々のスパイス
なくってもかまわない
なくなってもかまわない
裸で胎を出て
裸で帰るまでの
きまぐれなお遊び
奪われる覚悟はできているよ
自分の根っこまで奪われてしまっても
自分なしでやっていける
そんな覚悟と
自信

どの今日とどの明日のあいだにも
夜がある
どの今日とどの明日のあいだでも
同じこと
自分だと思ってきたさっきまでのすべて
自分のだと思ってきたすべて
奪われ尽くさないと
夜はただしく渡れないらしい
自分は自分はと
うるさくしがみついてきたな、みんな
どの自分もごっそり剥ぎ落されて
かたちも色もなくなって
そうして渡っていく夜だそうじゃないか
経験も知識もぺろりと落ちる
あったことはなかったこと
手に入れたものは入れなかったもの
喜怒哀楽しようにも
対象も心も思いもなくなる

結論はとうに出ている
じつをいえば
問題は解決してしまっている
自分でこしらえた心臓ではなかったじゃないか
自分でつくった今日のひかり
今日の時間ではなかった
夜のむこうがわには
自分で準備したわけでないものが
ちゃんと待っているはずだろう

どこにあっても
それなりの心臓が動いてくれるだろう
おかげでいろいろ経験ができる
他の臓器も
いつのまにかできているだろう
いい調子ってわけだ
オーケー
つまり最高ってこと
どの今日にあっても



そうしてどこへ
木も草も枯れ切って
失せた河原
しらじら
どこへ
なに
そうして
ひとり?(前から)
ひとり?(はじめから)
ひとり?(うそ)
ひとり?(思いのなかで)
ひとり?(という甘え)
足は歩む
進む
意思などいらず
ヒトは
思想ではないから
落ちている
ストロー
キャンディーの包み紙
よじれたティシュ
要らないもの
しらじら
ここに
いまに
それぞれの骨
捨てられたもの
拾われないもの
惜しまれないもの
それぞれの骨
どこへ
そうして
むかうのを止めたのに?
時間の河よ
行くのね、おまえだけ
すべてに支流をめぐらせて
すべてを引きこみながら
逸れる必要?
逸れるべき?
河から?
骨になり切って?
ここに
いまに
貼りついて
どうするの、そして?
街へ?
なつかしい香り
ぬくさ
ざわざわと
惑わす
なにか大事なもの
あるかのように
ないのに
なにも
時間の河
なめらかに進ませる
だけの
ざわざわ
もう戻らないでしょ?
決めたでしょ?
帰っていくなんて
場所
あたしにはない
ここに
いまに
貼りついて
おらず
はらはらと
動き
戻り
時代の
流行った感性の
考え方の
振舞い方の
しゃべり方の
あたし
あなた
みんなそうよね
骨として流れ続ける
時間の河
用なし
はじめから
まぼろし
それの表に貼りついて
生きていたかの
ような
まぼろしの心
思い
こだわり
仲間うちの
認めあい
ひとりひとり
抜けていくのよ
お仲間
ほかの群れは
別のお仲間などに
見向きもしない
そうして
枯れ切って
まだ生きてるなんて
まぼろし
それも
しらじら
燠火の
白くかたまった炎
行く
行く
絶対の停止へ
終了点へ
死と忘却を完成せよ
命じられて
力みなぎるわずかの間
ちょっと乗せられて
おろかな仕事
おろかな思慮
おろかな配慮
おろかな労苦
やがて
吹き外され
乾いて
末端いたるところから
ぼろぼろは芽を出す
骨にむかって
まっしぐらの肉体と
分解にむかう
精神
勢神の時はあった?
やがて
静神
清神にはならず
聖神にはならず
おろかな終末
したことも
しなかったことも
みな骨
キャンディーの包み紙
折れたストロー
よじれたティシュ
なにか大きな
災害の後
拾われぬままの
小さな塵芥
人生
刈り取られぬ実り
落ち穂拾いの後
なお残る小さな種
自分だけが
知っている多量の時間
量はどこへ
質はどこへ
残そうとしても詮ない
別の群れは
引き継がないから
おろかな配慮
残す
残さぬ
価値
効果
未来
過去
現在
ここに
いまに
しらじら

大きな時のめぐり



いつも嵌めている指輪をふたつ
これもまた
いつものように
机の前につけた黒い小箱の上に置いてある
ライトのひかりを受けて
ふたつとも
幾か所か輝いている

(わたくしはこのところ詩をさがしていて
(ひとの詩をみても
(自分でなにか書きはじめても
(ああ、詩ではない、こんなものは…と
(すぐ離れてしまうようになっていた……

ひとつは金
ひとつは銀
ライトの反映は鈍く
ずっと見ていても眩しくはない
それらの下には
赤い薔薇
ながいこと枯れないようにされた
真っ赤な小ぶりの薔薇

…詩ではないか
いつも見ている目の前の
こんな情景
ライトのあかりの
この鈍い反映
照らされた黒い箱に落ちる影
その下の赤
薔薇の花弁の縁の黒
くっきりとした線

ただ
これだけのこと
風も立たず
ふいの現われもない
しかし
生きねばならぬ
紋切り型の
鼓舞や励ましの外れまで

いにしえの道具類は
遠くしまわれ
または失われ
裸のてのひらだけが
わたくしをなお
支えようとしている気配
おお、〈友〉
失われぬもの
失われようもないもの
そこへ戻っていく
大きな時のめぐりが
またも指標のひとつを
通過しつつある

帰還兵


アイスクリームが食べられるのだ
なんたってね

むがむちゅうで
ジョンを殺し
太郎のあたまを割り
フリッツの首を刎ね
花子の腹を裂き
ロペスの胸を抉りました

雨風や嵐や
捕虜たちの処刑や
娼婦小屋
帰国や
歓迎会や
いろいろありましたが
省略

ようやくのことで
楽しい楽しい
きみとの二次会
ぼくの好きな
特製アイスクリーム
いっぱい作ってくれたってね

たいへんだったが
生きて帰れて
ありがとうございます
神様
この世はほんとにすばらしい
あれやこれやも夢のよう
もう手も血にはまみれてないし

アイスクリームが食べられるのだ
みんなのかわり

たぶん流れはみどりの光のようになり



たぶん流れはみどりの光のようになり
水(、かたい、じつは、思われている以上に、)
水(、ほんとうに頻繁に思う、水というものをまだわかっていない、と)
よりもるるるるとなり
もう達するということはなくなって
移るような
留まっているような
あるような
ないような
…そうしてすっかりそれにわたくしも同化してしまおうとするのだろう
同化
していこうとするわたくしは
なんなのだか
わたくしにはわからない
そのときにはわかるだろうかいやわからないだろうと感じる
わたくしというのはやっぱりいつも
何人もでつかまる浮き輪のようなもので
その何人もがみんなわたくしと自称するものだから
さっきのわたくしと
いまのわたくしとは
まったく繋がっていなかったりする
当然のことだね
いまさら言い直して確認するほどのことじゃないね

午後も遅くなってからふいに風が強くなり出し
それでもわたくしは気持ちを変えずに
広大な河川敷の草原に出ていった
四方の空が見渡せ
いくつも巨大な雲のかたまりが渡っていく
まだ冬というほどではない肌寒さだから
ライナーを除いてうすいコートを羽織っていった
風は物量として当たってくる
髪が引き千切られるような勢いを受けつづけて
わたくしは奇妙な言い方ながらすっかりわたくしだとかろうじて感じていた
すっかりわたくし
内容なんてもうないのだ
過去もいつのまにかもげ落ちてしまっていた
ちぎれて飛んでいってしまっていた
未来も(いかなる未来であれ)
もう関係ないわたくしのようだすっかり

ここでこの分かち書きの記述はストップ

ほんとうは書きはじめる時に
河川敷の草原で振り返るさまを描いて結ぼうと思っていた
強風のなかをずんずん歩いていって
ある地点で振り返る
すると後ろのそこここに
自分が何人も黒ずんで立っているのが見えるという結び方
それをやろうと思って書きはじめた
どうしてだろう
それをしたくなくなった
実際にわたくしは振り返ってみたし
あそこやそこ
むこうのあのあたりにも
数分前の過去の黒ずんだ自分がいるとしてもわるくないと確認までしたのだ

たぶん流れはみどりの光のようになり
と書き出したのは
どうしてかわからない
そんな計画ではなかったのに
それに
水(、かたい、じつは、思われている以上に、)
と書き
水(、ほんとうに頻繁に思う、水というものをまだわかっていない、と)
とさらに続け
よりもるるるるとなり
もう達するということはなくなって
と繋げて
移るような
留まっているような
あるような
ないような
と伸ばしていった…

なんだかせつないよ
わたくしは急速になにかの頂にたどり着いてしまい
四方からのとほうもない風を同時に受けて
はじめて経験するようなバランスを保たされている
でも心細くはないのだ
こんなにすっかりからっぽになって
だれに届くか届かないかももう思わずに
ことばを並んでいくばかりで

年齢



温度がさがって
増していく廊下のかたさ

だれもいないところなどないと
知ってるはずの年齢でしょ?
ほそい冷凍花のくずれていく音が
だから
届いてもいる

うすいガラスは
かならず
だれかの心を受信しているという
食器棚に並んでいるのは
ほんとうは位牌なのだとも

生きている
死んでいく
あらたな響きの
はじまることのない沼があって
そのほとりに
ひとびとは
最後
とどまるのらしい

つくり始めるのも
仮住まい

もう
館でなくてもいいと
諦めていたりする
らしい

長汀風景



深い予算からもぼくとわたしは
手をみどりに
隅々とたずさえて
ゼリー状になって滑るあらゆる川水たちほど
宙枯れもせず
影を砕いてゆっくりと飲む

波情が浮上しつつある
固定のなぎさに
古くから貴賎の遺骸を拾い集めつつ
鏘々と鳴る細い石人たち
景色は動き
生者はなぎさに沿って
青々と留まっている

目を瞑ることで



微動だにせぬ
石版のような日々
旅の人の帰還を夢みながらの
遠い夕餉

この食堂の
なんという暗さか
目を瞑ることで
ようやく一粒一粒を
見分ける

北極を後にして



ふつうの猫がふつうのおばさんに撫でられていた
星がひとつ出ている

夜になったのでぼくはまた北極まで歩く
北極はそこの露地をぬけた角にある
よく行く

行ったからといって角があるだけで
角をちょっと行ったり戻ったり
立ち止まって鼻先を拭ったりする

そうして帰ってくるのだ
北極を後にして
なんども行き来してみた角を残して

ふつうの猫がふつうのおばさんにまだ撫でられている
星がひとつ出ている


愛しあった者たちは


いつか離れるさだめ

平和なときには
骨になっても
まじりあえない
骨壺に隔離されて

離ればなれ
永遠に
壺のなか
ひとり

いつか離れるさだめ

見ていたのは 見られていたのは



「いっしょになって考えたり、夢見たりしているのだ、おまえと私は。
―そして、私たちはいちども離れたことはない、私たちは永遠なのだ!」      
(ネルヴァル『オーレリア』第二部Ⅰ)




郊外へいく電車
はたちまで住んだ
実家のほうへ
遠いような近いような
……遠いナ
やっぱり
青年期までの日々の堆積が
過ぎる駅ごとに固まっている
こびりついている

べらべら自分を語るたちじゃない
しゃべる時はしゃべるけどね
しゃべりたいことは多い
でもおまえたちにはうんざりだろう
文字よ
白紙よ
記述者の思いを
こまごまと聞かされたりしたら
だから
たったひとつだけ語る
電車のなかでの
めずらしくもない光景ひとつ
母と娘と息子
家族三人が座っておりました

娘は一〇代はじめに見える
メガネさんで
ぷっくりふくれた顔
まだお化粧には興味のない頃
けっこう大柄
すこし太った猫のよう
ジーンズに地味なジャケット
女っけはどこにもない
でもすべらかな髪
つるつるの天然の肌

息子はモップのような髪
伸びすぎた苔のよう
土方のにいちゃんを
ちっちゃくしたような顔立ち
着ているのは
安い黒いジャンパー
それよりなにより
ゲーム機に夢中だなキミは

で、ふたりのあいだに
お母さん
メールを打っているようだが
ずいぶん心配そうな顔
というより携帯の
扱いに手間取っている顔

娘は眠り惚けて
あたまをお母さんの肩に
すっかり倒している
人の目なんか気にせずに
メガネさん爆睡の図
ゆたかな頬っぺたが傾き
口はちょっと開きぎみ
大柄なからだを預けきって
信じきっているね
お母さんのいるのを
お母さんと弟(たぶん)と
じぶんのいまのかたちを

語りたかったのは
これだけ
お話はおしまい
めずらしくもない光景だろう?
けれども
ずっとこれを見ていた
駅から駅
また次の駅から駅
退屈しのぎの本も開かず
メガネさん爆睡の図
この三人のいま
ずっとずっと見ていた     

郊外へいく電車
はたちまで住んだ
実家のほうへ
遠いような近いような
……遠いナ
やっぱり
戻ってみても
戻ることのできない
遠さ

いつも思うんだけれど
こんなような時
だれ?
見ていたのは
見られていたのは
戻ってみても
戻ることのできない
遠さのなかで

ことばがどういうものか それだけは知ってきていたから




   *

地方Yに住んでいた頃
遠い海外の地方Bで大きな戦争が起こり
世界中のニュースは毎日
その戦争で持ちきりだった

正確にいえば
それは戦争とも言えないような
一方的な攻撃
比較にもならない大きな武力を備えたPが
ほとんど武力を持たない隣国のQを制圧しようとしていた
Q国民はもともと
Pの広大な土地に住んでいたが
歴史上のある時
P民族は大挙してその土地に押しかけ
Q民族を荒れた不毛の土地に追いやった
そんな経緯があった

きのうは数百人
きょうは数十人
おとといはやはり数百人
そんな死傷者情報が届くなかで
ひどいことだ
ひどいことだ
ひどいことだ
地方Yの人々と話すたびに
ぼくは言い続けた
ひどいことだ
ひどいことだ
ひどいことだ

Yの人々はしかし
冷淡
というより
冷静
というか
さめていた
どんな漢字を当てればいいのか
迷う
冷めていたのか
醒めていたのか
覚めていたのか
それとも
褪めていたのか
人間として

外国のことなど関係ない
国連かなにかがどうにかすべきことだろ
だいたいQだって悪いんじゃないのか
人間なんてそんなものだろう
人はなにかで死ぬんだからしょうがないよ
前世での悪人が集まって生まれた場所じゃないのかね
ネガティヴなニュースなんて流すべきじゃないのよ
あなたなにかあの国と関係あるの

洩れもあるかもしれない
でも
あといくつかのパターンぐらいだろう
数え忘れたものがあるとしても
ともあれ
ここまでで
第一部は終わり


**

さて
第二部

ぼくは数年後
地方Yを離れて
べつの地方へと転勤になった
地方というより
大都会といったほうがいい
首都といってもいい
そんな別名を持っている地方も
あるだけのことだが

いつものような朝
出勤のために目覚め
きょうの天気予報を見ようと
テレビをつける
すると
大地震の報道
現場に入って四方を見まわすカメラ
起きて五時間以上後だというが
小さな火災
大きな火災
倒壊したビル
ぺしゃんこの住宅
高速道路から落ちそうな車
血が流れる道路
Yは完全な麻痺状態に陥っています
被害の程度は測り知れません
マイクに叫び続けるジャーナリスト

数日するうちに
警察も自衛隊も報道機関も
大災害の愕然とするような全貌を知るに至る
数キロにわたる巨大な地割れが起こり
地方Yの中心部は地の底へと落ち
その後
数時間で地割れは閉じてしまった
Yの郊外だけが地上に残り
一般的な大地震の様相を呈していたのだ
地の底にどれだけの人間が呑みこまれたのか
まだまだわからないが
Y中心部に午前二時頃にいた人間の数は
少なくとも十万人を超える
まさかそれがぜんぶ?
とにかく
県庁や市役所までもが
ぜんぶ消えてしまいましたからねえ
なんとも
なんとも

* * *

さて
第三部

ぼくはもちろん
言わなかった

Yのことなど関係ない
国かなにかがどうにかすべきことだろ
だいたいYだって悪いんじゃないのか
人間なんてそんなものだろう
人はなにかで死ぬんだからしょうがないよ
前世での悪人が集まって生まれた場所じゃないのかね
ネガティヴなニュースなんて流すべきじゃないのよ
あなたなにかあの地方と関係あるの

こういったパターン
口にはしなかった
なにも知らないぼくだけど
ことばがどういうものか
それだけは知ってきていたから

しかし
ぼくは言わなかった
ひどいことだ
ひどいことだ
ひどいことだ
地方というより
大都会といったほうがいい
首都といってもいい
そんな別名を持っている地方の
人々と話すたびに
ぼくは言わなかった
ひどいことだ
ひどいことだ
ひどいことだ

褪めていたのではない
見聞きして
語らぬことで
ひとは現象の反射鏡にもなれる
見聞きと
思いと
沈黙の
特別なバランスが要るけれども

ともあれ
地上の多くのYにむけて
ぼくは
ぼくらは
現象を反射した
現象を生じさせないためには
ぼくらのように
反射のすべを学ぶしかない

要るのは
見聞きと
思いと
沈黙の
特別なバランス

沈黙だけではいけない
沈黙は
現象を吸い寄せる
ことに
褪めた者たちの
沈黙は

できるかな
Yたち
見聞きと
思いと
沈黙の
特別なバランス

褪めることなしに