2012年1月19日木曜日

あたまの左側 (改訂版)

すぐ次の時間は
あたまの左側から入ってくる

これに気づいてからは
ときどき
あたまの左側から心の耳を出して
近くの未来を聴く

滝のような
霧の森のような
すずしい
大きな穴があるところ

そこの境目に
いつも涼んでいるのは
もっと
本当の自分?
もっと
嘘でない
自分?

ここは
ここではないね…

本当だね
ここではないここが
ここかしら…

そんな話の
すらすら通じる心地よさ

近くの
未来を聴きながら
涼んでいる
ぼくら

2012年1月14日土曜日

サボテン




ダメにしてしまいそうだったが
持ち直してくれて
よろこばしい
サボテン

午後には陽もあびて
やわらかい宝石のような
かためのゼリーのような
未来ある
みどり

自他の境というものを
思いなおすのだ
境のむこうも
やはり
わたしらしいと

その証拠にみな
わたしと自称する

その証拠にみな
おし黙ったりする

あたまの左側




すぐ次の時間は
あたまの左側から入ってくる

これに気づいてからは
ときどき
あたまの左側から心の耳を出して
近くの未来を聴く

滝のような
霧の森のような
すずしい大きな穴があり
もっと本当の自分が
そこの境目に
いつも涼んでいる

ここは
ここではない

こんな話の
すらすら通じる人に
まだ
出会えるのかな

暮れがたに




日の暮れがたに
入っていく

空気とも
大気とも呼びかねる
この不思議な澄明さはなんだろう
まだ明るいのに
終焉が
ものの端々を浸し
この世はやはり奇跡であったと
心に反省を強いる

ひとりでは
ないのかもしれない
ものは
心であったかもしれない

素直に
生きてみるか
もっと

寂しさを
寂しみ
肌寒さを
もっと
肌になりきって
受け

日の丸



祝日
日の丸
いつもどおりの白地に赤丸
さっぱりした
容赦ない
酷薄なデザイン

まつわる歴史でなく
あのデザインがつらく
幼時より嫌った旗

お絵描きの時
赤丸のまわりに
他の色で輪を描き
耐えた

あ、ラッキーストライク…
幼時の絵を思い出しながら
悟った
壮年のある日

もう煙草は吸わなくなっていた

はためき続けている
日の丸

成人




晴れ上がった成人式の日
きもの着なれぬ
あの子たちも
なんとか
様になったかな

成人なんて
しかし
若者を馬鹿にした言い方
昨日まで
なんだったのかな
あの子たち

はたちまでに
ひと仕事終えてしまった
ランボーや
ラディゲ
世界の成人たちが
こぞって
読み超えられないでいる



心の手に掬う




幾重にも梱包された
重い荷物のように
モーツァルトさえ
感じられる

どの荷も
今日は解かずにいよう
古い椅子にからだを落とし
見るでもなく
聞くでもなく

なにかを
いつもしているという不幸

時間の過ぎ去りの
継ぎ目
継ぎ目と
友だちになって
なんだか
誰も来ない牧場を
そぞろ歩きしてきた気分

(…あの人たちのように
(生きたくはないな

追わない思いがある
ひろげない
思い

ぷつぷつと
生まれ続ける
細胞たちこそ健やかなれ

そのための
肥やしになるものだけ
心の手に掬う

常寂光寺




常寂光寺の冬の池
畔にひとり

時は流れ
ともに訪れた人たちも逝き
畔にひとり
止水のさまに目を落とし
沈む枯葉を数え

苔生した
いにしえの墓はならぶ
丹精の木々は
たぶん
明日を待つ

時は過ぎるが
到り続けもする

小風が吹き過ぎ
陽は移ろい
寂しさは
たぶん
充実のあかし

常寂光とは
よくぞ
言ったる

死んだ人たちに




死んだ人たちに
いつまでもかかずらわっている
わけにもいかない

たとえば船に乗っていて
どこかで陸に
上がってしまったのが彼ら
まったく
海を離れちまいやがって
と惜しむのは
じつは滑稽かもしれない

海と陸と
どちらが永遠か

そんな馬鹿な問いも
もやいや錨の役に立つ
わけのわからない
宇宙

わけがわからないが
方途のない
わけでもない
宇宙

見えない道




ふたりにしかわからないふたりのこと
ふたりにさえわからないふたりのこと

どこまで行くつもりなのと問う
どこまで来たつもりなのと問う

他人には見えない道にいつもいる

見えない交差点ですれ違う時
見知らぬ人たちの道々も垣間見え
ああ 
なんと無数の道が…と
めくらめく

立ちつくし
しばらくして自分の道に戻ると
すこし温もっているような
その道

(自分のことも救う、とは…

もうすこし
わかりかけてもきたような

ふたりにしかわからないふたりのこと
ふたりにさえわからないふたりのこと

温度が生き物のように





やはり
暮れがたの木の床が
しみじみと
いい

淡いひかりとなっていく
空を映し
屋内に咲く薔薇を
下から映し
窓の桟を
やわらかな十字架にする

求めない
ことにも慣れたか

遠ざけるべき
音曲
書物

温度が
生き物のように
わずかずつ
移っていっている…


一杯ゆっくりと




線香の香り

思い出す
あれこれは
線香の香りのなかに
そのままに

さざんかが
美しい

なんといっても
またすぐ
来る春

一杯
ゆっくりと
酒を酌む
心もちだけは
保つ

自然に整う
その他の
こと

シルエット





うすいカーテン越しの外光も
みな
うつくしい

なんの比喩か
わからない人びとから離れて
遠いもの
近いもの
ひと息の中に
収まってしまう
みんな

ここにいるよ
と呼びかけるべき人もいない
ながい季節

日の出
日の入り
草木のそよぎ
あのことも
このことも
シルエットへとなりゆく
ゆうべ