2013年6月29日土曜日

生者!、、、、




                                                                              
ちょっと立ち止まると
追いついてくる
逝ったものたち

駅のホームでも
ひとがまばらな歩道でも
閑散としたロビーでも

思い出すことしかできないが
思い出すだけで
じゅうぶんだろうとは思う

まだまだ
奔流のなかにいて

生者!、、、、であるかのようにして
                                  
   


2013年6月26日水曜日

本体




時間を〈経〉たせ
日々を〈暮れ〉させ
起こることを〈過ご〉させ

生き続けていくほどに
疲れ切っていくほどに

世の動きに翻弄され
不都合や病に苛まれ

ついにはわずかの息と
時どき飲み込まれる唾
目の緩い動きだけになって

なおさら強く
いよいよ著く
若返っていくもの

やわらぎ
敏感になり
みずみずしくなり
無限の開かれへ
顕かに
太く
たくましく

育ち続けていくもの
                                  
  




2013年6月25日火曜日

みんな腕を扱いかねている





美容室では
肩から腕まで揉んでくれたが
そうするうち
寝ているときに
腕はいらないよね
ジャマだよね
という話で盛り上がってしまった

両腕さえなければ
眠りはもっと快適で
よこを向くときも
肩が痛くなったりしないし
首も楽だしね

せめて
必要におうじて
腕がからだに同化したり
取りはずせたり
そんなふうだといいよね
最近のタブレットの
キーボードみたいな感じで

なあんだ
みんな
腕を扱いかねているときが
あったのかと
ちょっぴり
世界と和解したような

気分になった







2013年6月24日月曜日

埃が積もって汚れ放題の張り出しのある階段からはじまったこと






階段の壁には20センチほどの幅で張り出した部分が延びており
先端はむこうの壁に接していて階段からは高すぎて届かない
近い手前の部分にはまだ手も届くから掃除も可能だが
50センチも離れれば長いモップでも掃除はしづらくなる
そのため階段の掃除はなされても張り出し部分は放っておかれる
こんな階段を毎日のように昇降していると気鬱になる
階段を下りるにつれ距離が広がる張り出し部分は埃だらけで
灰褐色の埃だまりが階段のわきに溜まり続けている
階段を下りていこうとする際にはその様子が見える
階段を昇ってくる時にも意識の中にその様子が見えている
その建物に入る時にはいつも心に層をなす埃が見えている
その建物へ外から向かう時も心に層をなす埃が見えている

そんな階段のあるビルに入っている塾や習い事に通ったこともある
そんな階段のあるビルに入っている職場に通いつづけたこともある
そんな階段のあるビルに入っている住まいに住んでいたこともある

高すぎて遠すぎてどうにも掃除の難しい階段の張り出し
しかも自分が掃除をすべき立場にいるわけでもなく
かといってビルの清掃担当者がそこだけはまったく手をつけないところ

そんな階段を生活の中に持ち続けていてどうしようもないつらさ
いやな感じ

そんな階段だけではなく他にも似たようなものがある
ここにも
そこにも
あそこにも
持ち続けていてどうしようもない
つらさ

いやな感じ

別れ話がうまくいかずに少年に刺されて死んだ娘の
住んでいた雑居ビルの映像をニュースで見たら
そんな階段のなかでもたっぷりとそんな要素の満ちた階段があって
刺された娘は毎日ここを昇降して暮らしていたのがわかった
階段の張り出しの埃や汚れをさんざん毎日見続け
心のなかにもさんざんそれを取り込み
この階段で刺されて階下まで転げ落ちて死んだ

いやな感じ

娘はとうとうあの階段や汚れた張り出しから逃れられずに
他のどこかではなくあの場所で刺されて死んだ

そういう短い人生だったんだね
とニュースの階段映像を見ながら
刺されて死んでしまった娘につぶやいてみた

そういう短い人生だったわけね
とニュースの階段映像から
刺されて死んでしまった娘がつぶやいてきた
わけはないが
埃が積もって汚れ放題の張り出しのある階段経験を共有する娘と
ぼくは
まだ生きている(つもりの)ぼくのほうで
ちょっとでも枠というか
線というか
そんなものを思いのなかで使って
かかわりを仮構しておくほうがいいのかな
と思った

そういう短い人生だったんだね
しかも
埃が積もって汚れ放題の張り出しのある階段で
殺されてしまったんだ

そんなふうに
もう一度ちゃんとつぶやくと
娘が
ではなく
(もちろん
(もちろん
ぼくのそんなつぶやきが
濃い空気のようにぼくの前にわだかまって
埃が積もって汚れ放題の張り出しのある階段経験として
透明の吸着性の実体となりはじめた
ようだ

ようだ

確証はないけれど

ようだ

いろいろな人を
さらに
さらに
吸いはじめる
ようだ

無責任なようだが
ぼくは
知らない
どうなるか
なんて

みんな
埃が積もって汚れ放題の張り出しのある階段から
はじまったこと

どうなるか
なんて
ぼくは
知らない
無責任なようだが

みんな
埃が積もって汚れ放題の張り出しのある階段から
はじまったこと







2013年6月23日日曜日

この方針は堅持するということ





     いつも他の物語が在る
    目でとらえられる以上のものが在る
        W..オーデン





ながいながい物語が
無数の物語が
複雑に交差しあい
音もなく語られ続けているから
だれの声も
聞こえなくていい
風さえも
なにか語りたげならば
黙れ!

そうして
静かに座ってなどおらず
わたくしは動き続け
歩き
走っている

詩など
沈黙してしまえ!
もし
停滞や弱気や
たそがれや
衰弱に
親しみ続けているなら

物で溢れた部屋を
そのまま溢れさせておき
なにもない部屋を
そのまま空虚にしておき

みどりには
みどりを
コンクリートには
コンクリートを
木材には
木材を

つまり
なにものでもなく
固着せず
個着せず
すべてに順応する

この方針は
堅持するということ
                               
   


2013年6月21日金曜日

ふつうの体





女性
男性

いやな言葉

消毒された
薬っぽい
性を思わせる

病院の
総合診療の敷居でも
またぐ時みたいに

おんな
おとこ

どうして
これでいけないか

ふつうの体
らしき雰囲気が
これらには
まだある

ふつうの体で
生きて
いこうよ





                 

2013年6月19日水曜日

あこがれる






梅干だけ
しろいご飯に
ぽつん

あこがれる
そんな
食事

やろうと思えば
すぐできる
やりたければ
やれば
いいのだが…

なんとなく
しないで
よけいなものを
加えている

梅は三毒を絶ち
その日の難を逃れる
というが
そんな大仰な
話ではなく*

しろいご飯に
ぽつん

梅干だけ

あこがれる
そんな
食事

そんな
精神

こころ持ち




  
*もちろん、梅干の含むクエン酸が黄色ブドウ球菌や病原性大腸菌などを抑制し、整腸・解毒作用を持つこと、やはり梅干に含まれるピクリン酸がクエン酸とともに乳酸を燃焼させエネルギーに変えるので疲労回復に効果があり、肝機能の活性化にもなること、豊富に含まれるミネラルが不要な水分を除去することなどは知った上で…







うすみどり






うすみどり


ひらがなで書く

思い

ながら
使わない

漢字

えのぐ

ひらがなだけが
ほんのり

ほのり

感じさせて
くれる

うすみどり

ら、し、さ、



ほしくって





         

2013年6月18日火曜日

グッド・ニューズ





  
このような知らせが来ているのでお伝えしておく
音にも文字にもよらない知らせ
短く簡略だがわかる人にはわかる

知らせはいう

〈わたしたちは正確さを超えた連絡によって正確に伝える
〈わたしたちは精妙な喩と象徴と構造類似を駆使して伝える
〈たとえばあなたがふと手にとった商品の説明書きによって
〈たとえばあなたが駅ですれちがった人の靴の色によって
〈わたしたちはわずかの誤差も偶然もなくあなたに情報を送る

〈世界と表象のすべて
〈そればかりか心や思念のすべて
〈それらは実在ではなく喩であり象徴であると見直し
〈それらが全面的な連絡手段であるのを知るように。
〈たとえば水
〈空
〈海
〈森
〈山
〈町
〈それらはなんの比喩や象徴であったかと考えるように





2013年6月16日日曜日

涼しい異性




  
涼しい異性
着陸
するときのはにかみよ

魅力の

なんて
ちょっと言い過ぎで

夜は夜で
南国と

北国の
フルーツをあわせた
カクテル

ピンクの
あさがお開くまで
もうすこし

朝の闇

うすいのに
ふかい闇

眠るように

息をしてじつは死んでいるんだ
もうすこし

したら
息をして
目をあけて
四肢うごかして

死んでいくんだもっと

もっと
もっと
もっと

涼しい異性
着陸

するときのはにかみよ

                                  
   


2013年6月14日金曜日

牛のオナラ




うそのような本当の話にきりはない

EUでは牛のオナラにも課税しているそうで
アイルランドでは一頭あたり18ドル
デンマークでは一頭あたり110ドル
畜産家は納税しなければいけないそうな

草をゆっくり消化する牛たちのオナラが
温室効果ガスの18パーセントにあたるからだそうな

牛の食肉解体場あたりでは
メタンガスの雲ができているのだそうな

                          



   

2013年6月12日水曜日

わかっていないことがらが





         Par les soirs bleus d’été....
                         Arthur Rimbaud




青い夏の夜…
とランボー少年が歌った頃
ぼくは生れてもおらず
彼が死んでも
まだまだ
生まれなかったので
たぶん
あの世で
ランボーと会っていたはず

細胞の生死のことは
ずんずんと
わかってきているようだが
特別のちからを
予期もせぬ授けられ方をした
わずかの人びとを
のぞいて
精神の
魂の
霊の生死は
まったくわからないまゝ

いま目の前にあることをやれ
というのは
たしかによき助言
生の充実と力の発揮のすべては
たしかに
集中にのみ懸かっているから

とはいえ
想像もしなかったような
想像してもわずかにずれていたような
想像のハチャメチャさのどうしようもなく欠けてしまうような
とんでもない
しかし
シンプルでわかりやすい
精神の
魂の
霊の生死が
やはりぼくらを
たっぷりと包みこんでいる
まゝ

もっと
もっと
大きくゆたかに不確かに
い続けよう
あれがわかったって
あれ以外はわかっていないし
大空や大海のように
わかっていないことがらが
ぼくらを
たっぷり包みこんでいる







2013年6月11日火曜日

せちがらい世に




笑ってしまったのは
ニューズウィークの記事
アルカイダにも人事査定があるという
ケッサクだったな
こいつは

日本人が犠牲になった
アルジェリアのプラント襲撃事件
首謀者ベルモフタールは
幹部から評判が悪かったらしい
彼についての査定文書には
 1.電話をとらない
 2.会計報告書を送らない
 3.ネットのフォーラムに組織の恥部を書き込んだ ……
などなどと
協調性の欠如が指摘されていたそうな

そこで
ベルモフタール
評価の一発逆転をねらって
がんばって
あれをやらかしたらしい

テロ組織にして
この体たらく
協調性欠如のみなさん
地上はどこでも
どんどんと
せちがらい世に
なっていっておりますナァ



                            

2013年6月10日月曜日

死亡消費税





伊藤元重って
東大の教授だけど
死亡時に消費税を課せって
言い出したそうだな
政府の
社会保障制度改革国民会議っていう
非国民会議で

死ぬと遺産から徴収するらしい
名づけて
死亡消費税
本人も
非国民会議参加者たちも
けっこう
お得意らしい
いいアイデアだって

とにかく
取りやすいところから取ろうってのが
税の基本発想だから
死人に口なし
これほど取りやすい税もない
いままでよく考えなかったもんだ
思いつくのが
ちょっと遅かったな

余はむかしから言っておる
代議士税
知事税
市長税
大企業社長税に幹部税
なんといっても宗教税
ブランド品税
ポルシェ税どころか
プリウス税
そんな税をはやく設けよと
取りやすいところからでなく
取るべきところから取る
そんなまともな税制を
はやく設けよと

ま、無理じゃろうけどナ

伊藤元重って
むかしよく知っていた
世田谷の不動産屋のおやじの
親戚だって言ってた
あいつは東大教授なんてやってるが
からっきしダメなやつなんだ
そんなことを
おやじさん
よく言っていたっけ

強欲な大家が
デフレ期でさえ
うちの賃料をどんどん上げたがっていたが
おやじさんがガンとして
抵抗してくれた
元国鉄マンで
自衛隊やアメリカ軍が好きで
世界へのシビアな見方を持っていた
建築の現状や
不動産業界の現状には当然くわしく
いや、この分じゃ
もう日本はダメだよ
ここまで腐敗しちまっちゃ
もうどうにもならないよ
そんなことをよく言っていた

引っ越して
会わなくなった頃には
もう八〇近かったし
おやじさんは心臓が悪かったから
きっともう
死んでしまったろうな

死亡消費税
もちろん払わずに
死んでしまったろうな

世田谷区
代田の
フジタ不動産の
おやじさん