2011年8月19日金曜日

出ない旅


詩人たちはきっと
入り江の岩陰の
そこや
あのあたり
涼しく
薄い本をめくりながら
春のはじめの心の
毛並みなど
整えはじめているのだろう
激しい波しぶきに
コクリコの花束を思いあわせ
やがて沖の空が
世の本当の終わりのような
はじまりのような
代々の詩人たちの求め続けてきた
あの言い表わしがたい様相をとるのを
感知さえ難い
全身の扉を開いて
待っているのだろう

靴を
替えようか、私は
入り江のどの
岩陰に行くためでもなく
砂浜にも
町にも戻るでもなく
ただ足の肌に
新たな繊維を出会わせるために
終わり
はじまり
反意語に憑かれて
世紀の妄想に漬された脳も
べつの触感に
崩壊させてゆくため
そして――

風の中に死ぬ!
風の中に死ぬ!
遠さの中に
いや、遠さの外へ
実体となりきった透明として
草、水、舟、…
どれも記憶の
カフェのメニューにあった品々
あまりに小さなスプーンを
使いあぐねて
氷砂糖をひとつ
カップの縁に置いたままで
出た旅だった
たしか…

(こーひーダッタノニ
(ドウシテ葉ッパガ残ルノ
(かっぷノ内側ニ?

(さあ、
(どうしてだろうね
(きっと
(私たちが飲み続けてきたのは
(葉っぱの濾過され切れない
(お茶ばかりだったか
(人生と思って歩き続けてきたのが
(蛙の卵のゼラチン様の
(裏も表もないとろとろした境界だったように

…いつもいつも
捨てることになって
なんであれ
手放し
置き去りにし
捥がれるように奪われ
遠さの中に
いや、遠さの外へ
実体となりきった透明として
草、水、舟、…の私
どれも記憶の
とは言わせなくなるまで
待っていて、ね
無よ
なさよ
カフェのメニューにあった品々
あまりに小さなスプーンを
たとえば
使いあぐね
氷砂糖をひとつ
カップの縁に置いたままで

出ない旅



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