2012年3月11日日曜日

ボブ・ディランを、ふたたび必要な時代に、片桐ユズル氏と中山容氏の訳をまるごと借りながらそこここから引用して並べてみる




                Yes, ‘n’, how many times can a man turn his head,
                     Pretending he just doesn’t see?
                                                    (Bob Dylan : Blowin’ in the Wind)






ルーレットはまだまわっているのだし
わかるはずもないだろう
だれのところでとまるのか☆01
(…)
たたかいが そとで
あれくるっているから
まもなくお宅の窓もふるえ
壁もゆさぶられるだろう☆02

 (『風に吹かれて』だけじゃなく

ヘイ、ヘイ、ウディ・ガスリー、あなたに歌をつくったよ
やって来るおかしな世界の歌を
よわりはて飢え、つかれはて破れ
死にそうでもう生れそうもない世界☆03

(ボブ・ディランを何度でも思い出して

見ないふりをしつづけられるのか?☆04

(彼のいっぱいの歌の
(いっぱいの行のあちこちの
(こっちを見たり
(あっちに戻ったりして

幾年月 ある種のひとびとは存在しつづけるのか☆05

(ぼくはぼくの詩の根源を
(いつも
(牛蒡のように
(大根のように
(洗い直しておこう
(まずは手のひらで泥を拭い
(それから冷たい川の水で

ひとびとはあらゆることについてひとつひとつ賛成しない
いったいぜんたいこれはどういうことだろう
たったきのうおれは通りでだれかが
泣くよりほかにどうしようもないのを見た
おおこの河はながれつづけるのです
なにがじゃまに入ろうと 風がどちらへ吹こうと
河がながれつづけるかぎり おれはここにすわって
河のながれるのを見る☆06

(ボブ・ディランを何度でも
(片桐ユズル氏と中山容氏の訳で見直して

むかしのユダのように
あんたがたはうそつきだます☆07

壁のうしろにかくれるあんたがた
デスクのうしろにかくれるあんたがた
あんたがたにいっておきたい
あんたがたの正体はまるみえだよ☆08

あんたは最悪の恐怖
を ふりまいた
この世に
子どもを生むことの恐怖
まだ生れず まだ名前のない
おれの赤ん坊をおびやかしている
あんたはあんたの血管のなかの
血さえもったいないやつだ☆09

(詩とは
(歌とは
(どうであるべきだったかと

千人のささやきをきいたが だれもきこうとしていなかった
ひとりが飢え死ぬのをきいた 多くのひとがわらうのをきいた
どぶで死んだ詩人の歌をきいた
路地裏でさけぶ道化師の音をきいた
それで ひどい ひどい ひどい ひどい
ひどい雨が降りそうなんだ☆10

(思い直し続けよう 
(個と集団と金としがらみと状況と
(弱気と強気と
(叫び、沈黙、沈黙の少し前とのところで
(引き裂かれて震え続ける
(言葉たちとは、と

どこを見てもひとびとは意見があわない
そこであんたは立ちどまり本をよむ
たったきのうおれは通りでだれかを見た
それはほんとうにおそるべき経験なのだ
だがこの河はながれつづけるのです
なにがじゃまに入ろうと 風がどちらへ吹こうと
河がながれつづけるかぎり おれはここにすわって
河のながれるのを見る☆11

 (だいたいは片桐ユズル氏が訳したようだが
 (一九七四年までにできた訳の数々には
 (日本の詩がなかなか
(しづらかった口語のやわらかみが生きていて
 (理想的な詩歌口調の一例を見るよう

いくつの耳をつけたら為政者は
民衆のさけびがきこえるのか?
何人死んだら わかるのか☆12

(一九七四年…
(あの頃までにそれなりに
(健やかに伸びてきた詩のことばがあったなら
(それはどこへ行ってしまったか…
(まだあるのか
(ちぢこまって硬直して戻ってしまったか

幾年月 山は存在しつづけるのか
海に洗いながされてしまうまえに?
幾年月 ある種のひとびとは存在しつづけるのか
自由をゆるされるまでに?
見ないふりをしつづけられるのか?☆13

(「それはどこへ行ってしまったか…」
(「まだあるのか」
(「ちぢこまって硬直して戻ってしまったか」
(てなふうに書くのがダメじゃないかって
(思う、いつも
(「そいつはどご行っちまったか…」
(「まだあるんけ?」
(「ちぢごまっでさ、硬直してえ」
(「戻っちまったんでねえか」
(てなふうに
(書かないのは犯罪じゃねえか、って
 (詩的犯罪でねえか、って

どれだけ道をあるいたら☆14
どれだけ道をあるいたら☆15

 (くり返し見る

何人死んだら わかるのか☆16
何人死んだら わかるのか☆17

 (ディランは同じ行をくり返すのは
 (あまりしないが、
 (おれはするな、
 (バカなのかな、

見ないふりをしつづけられるのか?☆18
見ないふりをしつづけられるのか?☆19

 (ある種の精神疾患かもな、

幾年月 ある種のひとびとは存在しつづけるのか☆20
幾年月 ある種のひとびとは存在しつづけるのか☆21

 (晶文社のボブ・ディラン全詩集、
 (おれが持ってるやつ、
(ページがもうパリパリよ、
(わら半紙みたいな紙なんだよ、
(わら半紙じゃないにしてもさ、
 
レース場なんか行きたかねえ
スポーツ・カーの走るのなんか見ねえ
スポーツ・カーなんかないけども
スポーツ・カーなんかほしくない
いつでもそのへん歩けるんだから☆22

 (ほんと、
 (気取っている奴が嫌いなんだ、
 (おれ

わたしはあした行くのです、がきょう行くことだってできる
いつかどこかへ旅立つのです
でもどうしてもいいたくないことは
わたしもまたつらい旅をしているということ☆23

 (…人類という
 (つらい旅

雨が降りだすまえにもういちど出かけたい
ふかい黒い森のふかみまで歩きたい
そこには多くのひとびとがいて彼らの手はからっぽだ
そこでは毒だんごが水にあふれている
そこでは谷間のわが家がしめっぽいきたない牢屋とむかいあわせだ
そこでは執行人の顔はいつもうまくかくされている
そこでは飢えが見苦しく、魂はわすれられている
そこでは黒が色で、ゼロが数だ
それでぼくはそのことを告げ、かんがえ、しゃべり、呼吸するだろう☆24

 (こう言ってやりたい連中が
 (いつの時代にもいる
 (いまもだろう?
 (いまもだろう?

あんたが死ぬといい
あんたの死は近いぞ
そしたらあんたの棺桶について行き
うすぐらい午後に
あんたが墓穴におろされ
死の床につくのを見とどける
そして あんたの墓の上に立って
あんたが死んだことをたしかめる☆25

 (とはいえ、…

あかりをつけてもどうにもなりゃしない
ぼくにはあかりなんてなかったもの
あかりをつけてもどうにもなりゃしない
ぼくは道の暗い側にいるんだから☆26

 (ずいぶん引用してきたが、
 (そろそろ終わり
 (で、もう少し

あんたの目をあけるなにかが必要だ
あんたにさとらせるなにかが必要だ
あんたがいま立っているところ あんたがすわっている場所はほかならぬあなたの
もの
世の中はあんたをうちのめすことはできず
あんたをなめまわすこともできず
どんなにけりたおそうが
それであんたをきちがいにすることはできないことを
あなたには特別なものが必要だ
でも希望なんてコトバだけ
広角カーブあたりの風吹くかどで
たぶんあんたがいったり聞いたりしたものだ☆27
(…)
チキショー あんなふうにみえちゃうのかい
ここにはおれのいるところがわかるやつはいないのか
ここにはおれの感じがわかるやつはいないのか☆28
(…)
いない でもそれはあんたのゲームじゃない あんたのレースじゃない
あなたの名前はのってない あなたの顔はみえない
あなたはどこか別のところをみるべきだ
そしてどこにあんたがさがしもとめるこの希望をのぞめばいいか
どこにもえあがるこのあかりをのぞめばいいか
どこにふき上がる油田をのぞめばいいか
どこにてらしつづけるこのローソクをのぞめばいいか
どこにあなたがそことかどこかほかとかにあるのがわかってる
この希望をのぞめばいいか☆29

 (古びてないような気がするのは、
 (おれのアタマが古びているからか?
 (世界がなんにも、
 (進まなかったってことだからか?

あきらめないことを保証せよ
心にとどめて わすれないこと
彼でも彼女でも奴等でもそれでもないのだ
あんたが属しているのは
師匠たちは賢者やおろか者の
おきてをきめるけれど
おれには何もないんだよ したがうべきものなんか☆30

 (ジョイスも言ってたな、
 (「我ハ仕エズ」、
 (NON SERVIAM
 (これはミルトン『失楽園』のルシファーの言葉だが、
 (天使はいつも
 (この世では
(悪魔ぶって出てくるならい…

とつぜんあんたは何もこわいものはないことに気づく☆31

 (ランダム読みが
 (要るな、
 (ボブ・ディランは

ひとりであなたは立ち だれもそばにいない
ふるえる遠くの声がかすかに
あんたのねむっていた耳をおどろかせ聞える
だれかが ほんとうに
あんたをみつけたと おもっている と☆32

 (作者が並べたように
 (行を読まないってことが
 (力をふいに
 (生んだりする

あんたこそは
いままでできなかったことをするひと
いままでかちとれなかったものを かちとるひと☆33

 (2012年3月11日時点での
 (これが、ぼくのコンパクト・ボブ・ディラン。
 (片桐ユズルさん、ありがと
 (中山容さん、ありがと




[]
☆印を付した註は、すべて『ボブ・ディラン全詩集』(片桐ユズル・中山容訳、晶文社、1974)よりの引用。なお、引用中、「あんた」と「あなた」が交って使われているところは訳文通りとした。

☆01『時代はかわる』p.99
☆02『時代はかわる』p.99
☆03『ウディーに捧げる歌』p.14
☆04『風に吹かれて』p.43
☆05『風に吹かれて』p.43
☆06『河のながれを見つめて』p.357
☆07『戦争の親玉』p.46
☆08『戦争の親玉』p.46
☆09『戦争の親玉』pp.46-47
☆10『ひどい雨がふりそうなんだ』p.50
☆11『河のながれを見つめて』p.357
☆12『風に吹かれて』p.43
☆13『風に吹かれて』p.43
☆14『風に吹かれて』p.43
☆15『風に吹かれて』p.43
☆16『風に吹かれて』p.43
☆17『風に吹かれて』p.43
☆18『風に吹かれて』p.43
☆19『風に吹かれて』p.43
☆20『風に吹かれて』p.43
☆21『風に吹かれて』p.43
☆22『ボブ・ディランのブルース』p.49
☆23『ウディに捧げるうた』p.14
☆24『ひどい雨がふりそうなんだ』p.51
☆25『戦争の親玉』p.48
☆26『くよくよするなよ』p.52
☆27『ウディー・ガスリーへの最後の想い』p.70
☆28『ウディー・ガスリーへの最後の想い』p.72
☆29『ウディー・ガスリーへの最後の想い』p.73
☆30『イッツ・オール・ライト・マ』p.208
☆31『イッツ・オール・ライト・マ』p.208
☆32『イッツ・オール・ライト・マ』p.208
☆33『イッツ・オール・ライト・マ』p.208






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