この海には
何人もの友人と来たことがある
そのうちの四人ほどは
死んでしまって
今日はひとりで来ている
曇っていて
海の色と空の色とが
沖合でいっしょになっている
鳶がいるはずだが
今日はいない
犬を散歩させている
少し遠い人
砂浜に下りる
水で濡れて色のかわったところを
靴が濡れないところを
歩いている
そのあたりが少し固い
いちばん歩きやすい
ときどき立ち止まる
沖のほうを見る
海の見方は
簡単ではない
だれでもできるようで
なかなか
沖を見ればいいのか
海に向いていればいいのか
砂浜のむこうや後ろも見やりながら
それでも海のほうを
いっそう
大目に見ていればいいのか
砂浜を見やるまなざしが
心に下りていくようにすればいいのか
なかなか
このあたりで
死んだあいつとあんな話を
したような
しなかったような
思い出してみる
思い出しているのか
拵えあげているのか
はっきりしない
思い出そうという行為は
曖昧
これほどまで
海沿いの道
自転車や車が通る
それを見る
コンビニに荷物を運ぶ
コンビニのロゴ付きのトラックも通る
それを見る
あいつらは死んで
ぼくはまだここにいる
あたりまえのような
しかし
本当だろうかと
思わないでもない
ひとりで砂浜を歩く
なかなか疲れる
外国映画の砂浜場面のように
のんびりとした気分に
なれない
砂浜を歩いている
生活苦のようなものが
脚に来る
苦労症の脚?
あいつらと来た時
どんな飲料を持ってきていたろう
きっと
ペットボトルか
缶の飲料を買って
ここにきたはずだが…
思い出せないが
この思い出せなさが
リアルな感じ
時が流れたのだ
時などというものがあるのか
流れるのか
あまりに不確かだから、きっと
時が流れた…
などと人は言ってみる
いた人がおらず
声も聞こえず
姿も見えないが
本当にいなくなったと
いえるのか
わからず
時が流れた
などと思ってみる
海が見える
空が見える
沖が見える
ふり向くと
足あと
ながく付けて
歩いてきたものだなあ
もう少し
行く
どこかで
アスファルトの道に戻るから
そこまでは
付けて
歩いていく
そこで
足あとは終わる
風と海水が
ほどなく
すべてを消し去る
落ちている
こんなたくさんの
海草の根
古びたビニールの
紐のようなもの
サンダル
貝
ゴムの塊のようなもの
もう少し
行く
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