六田淳君と打っていた碁を
そのままにしてある
(けっきょくは空だと言っても、
(なにも言ったことにはならない…
(空と全とは同じこと…
また来週来て続けますから
このままにしておいてください
六田くんはそう言って
辞去したまま
戻って来ない人になった
訃報を受けた時
聴いていた
イズラエル・カマカヴィヴォオレ
雨が降っていて
最後の八重桜を散らし
牡丹を萎れさせ
若葉をあざやかに洗っていた
ときどき
雀たちが滑っていく
車が濡れて
空間に
ランプを滲ませ
ゆっくり
角を曲がっていく
六田くんと打っていた碁盤は
まだ
そのままにしておこう
雨の庭に出て
蕾をいっぱい付けてきた薔薇や
紫陽花の群れを見てこよう
蛙が鳴いていたが
もう
大きく夏がまわってきている
(けっきょくは空だと言っても、
(なにも言ったことにはならない…
(空と全とは同じこと…
また
孤独のほうへ
滑っていっているかな
―ほら、
また
雀たち
懐かしい人たちと行った
懐かしい場所へ
また
行ってみたいが…
行くだろうか
行かないだろうか
もう
どこへも…
とも思うが
行くだろうか
行かないだろうか
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