2012年5月23日水曜日

すっかり老い果てた頃になって、夕ぐれ、あかりも灯し… [翻訳・翻案]

ピエール・ド・ロンサール1524-1585

[Quand vous serez bien vieille, au soir, à la chandelleの翻訳・翻案]           


すっかり老い果てた頃になって、夕ぐれ、あかりも灯し
炉辺にすわり、糸を繰ったり紡いだりしながら
わたしの詩を口ずさみ、心を高ぶらせてあなたは言うでしょう、
美しかった頃のわたしを讃えたのはロンサール、と。

そのとき、これを聞いた侍女たちはみな、
仕事に疲れて半ばまどろんでいたにしても、
わたしの名のひびきに目を覚まして
永遠の誉れを受けたあなたの名を祝福するでしょう。

わたしはもう土の下にいて、骨さえ失せて亡霊になっている。
ミルトゥスの木陰あたりで安らっていることでしょう。
あなたはといえば老婆になって、炉辺にうずくまり、

わたしの愛を懐かしみ、きっと、あなたの傲慢な仕打ちを悔んでいる…
生きなさい、わたしを信じるのなら、明日など頼まずに。
いのちの薔薇を、今日からすぐに摘むのです。




5月、わが家のヴェランダには、マリー・ルイーズ・メイアンの創ったロゼッタ咲きの蔓薔薇ピエール・ド・ロンサールが咲き誇る。今年は花数もとりわけ多く、たっぷりと花弁は重なり、触れれば、若いふくよかな乳房の肌さながらにしっとりと涼しく手のひらに吸いついてくる。こういう薔薇に囲まれ、触れ、これらに時を注ぐ日々は、他のなにものにもかえがたい独自の至福の日々となる。
詩人ロンサールの作品に少しでも触れたことのある者なら、この薔薇に、よくもロンサールと名付けたものと思わされもする。

◆この薔薇の名の源となった詩人、ピエール・ド・ロンサールはといえば、知らぬ者とてない詩の王。「詩人たちの君主」、le prince des poètes。詩の愛好者なら古今東西の誰もが敬礼し、讃嘆措く能わず、苦労してでもルネサンス期のフランス語を調べながら、なんとしてでも生きているうちに原詩を読んでおきたいと切望する至高の詩編群の作者である。

◆難聴から外交生活を放棄し、友デュ・ベレーらとギリシア・ラテン文学研究に沈潜した彼は、デュ・ベレーの新文学宣言『フランス語の擁護と顕揚』(1549)に続き、『オードOdes』(1550-1552)『恋愛詩集Les Amours』(1552)を出版した。単なる個人的な詩業にとどまらず、世界詩上の決定的傑作の出現となった奇跡の年々である。後のサヴォア公妃マルグリットによる賞賛でバイロンばりの急な名声を獲得し、フランソワ2世妃メアリー・スチュアートによる全集の懇願、シャルル9世による庇護、エリザベス1世からの賜物と続いていく燦爛たる詩的栄光をみれば、他の詩人を引き合いに出してロンサールと比べてみようという愚かな思いなど潰える。晩年はことのほか病が篤かったとはいうが、傑作につぐ傑作をあれだけ現世の言語に残した詩人にとって、病の苦しみなど何ほどのことであったろう。人類の詩的頂点を生きた肉体と精神は、病など、当然の引き換えとして軽々と受容していたに違いない。

◆古典を前にすると、やれ批評だのやれ研究だのと姦しい時代になっており、文学研究者と呼ばれる群盗はそれを以て業績とし、あわよくば出世の道具ともしようと、無粋も甚だしい。ロンサールに向かう場合、これらの無粋さ、不相応さはなおさら際立って見える。ただ熟読玩味、暗誦し、讃嘆し、その集の前に瞑目するばかりであり、それでもなお余力と余暇が得られる時にのみ、彼の詩法についての考察を加えることが許されるかどうかである。1524911日生まれ、15851227日死去。文学能力、詩作能力、読解能力における下々としては、この誕生日と命日にせめては感謝と祈りを向け、詩王の中の詩王によくよく詩的加護を希求すべきであろう。




[原詩]
Quand vous serez bien vieille, au soir, à la chandelle           

Pierre de Ronsard


Quand vous serez bien vieille, au soir, à la chandelle,
Assise aupres du feu, devidant et filant,
Direz, chantant mes vers, en vous esmerveillant :
Ronsard me celebroit du temps que j'estois belle.

Lors, vous n'aurez servante oyant telle nouvelle,
Desja sous le labeur à demy sommeillant,
Qui au bruit de mon nom ne s'aille resveillant,
Benissant vostre nom de louange immortelle.

Je seray sous la terre et fantaume sans os :
Par les ombres myrteux je prendray mon repos :
Vous serez au fouyer une vieille accroupie,

Regrettant mon amour et vostre fier desdain.
Vivez, si m'en croyez, n'attendez à demain :
Cueillez dés aujourd'huy les roses de la vie.




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