2012年7月5日木曜日

水に描く輪  [翻案]

フランソワーズ・アルディ (1944)

[Françoise Hardy  《Des ronds dans l'eau   (1968)の翻案]



小川のほとりではじまった
あなたの人生

川のさざめきで育ったのよね

葦のあいだを流れ
道を上っていき
雑木林を抜けていく
さざめき

風車のはねや
正午の鐘の音も
微笑んでいた

小鳥の歌声も
はっきり
聞こえていて

遊んでいたわね
あなた
水に輪を描いて


いまは もっと
騒がしい水の中を
さまよっている
あなた
熱を入れ
揺れ動いて

でも 愛は、どこ?

野望には野望の掟
野望は宗教みたいなもの
望んでいるのよね
あなた
自分の声で
喧騒を治めてやろう、って

愛されたいのね
みんなに
ちょっとした
ヒーローみたいに

水に輪を
描けるはずの人なのに
あなた


いるわね
確かに
背後からあなたのことを
見ていてくれる人たち
たくさん

でも
考えておいて
あなた
水に
輪を描いたりしたら
みんな思うかもしれない、って
バカじゃないか、こいつは
村きっての
バカ者だったんだな
こいつ、って

そうしたら
だれが残るかしら
あなたに

あなたが
水に
輪を描きたい時
いっしょに
いて
あなたを見続けるのは
だれ?

水に輪を
描きたい時

あなたと




◆原題に忠実に読むなら、タイトルは「水の中のいくつかの輪」となる。「水に描く輪」ととりあえず訳したが、水面に描く輪、としてもいいかもしれないし、水面に描く波紋、としてもいいかもしれない。それらをすべて含めつつ、さらに広い意味あいを持たせるために「水に描く輪」としておいた。水面に棒や指で輪を描く時には、当然ながら水の中にも輪を、円を、描いている。象徴的な意味への飛躍を容易にさせてくれやすい「水の中」というイメージを保ちつつ、さらにいっそう象徴味のある単なる「水」という呼び方を選んだことになる。

◆詞はレーモン・ルセネシャルで、クロード・ルルーシュの映画『パリのめぐり逢い』の主題歌として1968年のヒット曲となった。五月革命で政治に走ることになった、たくさんの「水に輪を描けるはず」の青年たちに向けて歌われている、と聞こえる。
歌詞ははっきりと、「水に輪を描」くことの優位を語っている、そう聞いておいていいだろう。〈政治〉と遠い、自然との睦みあいや対話、いたいけな戯れなどの価値の優位。
もちろん、こうした〈政治〉観が正しいかどうか、機能上はこの観念の取り方がどこまで有効かどうか、それは別の問題ではある。
当時、すでに亡くなっていたが、知的世界に大きな影響を及ぼしていた自然と詩歌と物理学の瞑想家バシュラールへの思慕さえ感じられるようにも思うが、考え過ぎだろうか。

◆パリ大学で政治学を学んでいたフランソワーズ・アルディの、当時の歌いっぷりの動きのなさは、たえず身体を振っていたシルヴィ・ヴァルタンと対極的だ。一躍スターに祭り上げられた後、人前に姿を現わすのを嫌って、年に一枚ずつアルバムを出すという独自の活動のしかたを作っていったり、結婚しない女として、はやくもシングルマザーとしての生き方を創っていったりすることになる兆候が、すでにそこに見てとれるともいえる。

◆若い頃よりも、60歳を過ぎてからの白髪、革ジャンのアルディが魅力的だろう。凄み、強さ、媚びのなさが美しい。
一貫して自分を生きてきた、といった評はよくなされるが、一貫とはどういうことか。思想家というわけではない人間にとっての「一貫」は、つまりは、自分の生来の感情にしか従わないということに尽きる。思想は狂う。つねに、外からの移入物だから。主義も狂う。心身の生は無主義だから。
生来の感情、さらには、本来の感情。これをコンパスとするのは、むろん容易ではない。つねに感情の泉を掘り下りていなければならない。喜怒哀楽のさざめきを逃げずに、その泉の水に、輪を描き続けなければいけない。



Des ronds dans l'eau (24歳)
Message personnel 2007 (63歳)
Ma solitude est un choix (66歳)


                                                                       

[原詩]

Des ronds dans l'eau              
Françoise Hardy                                                 

Tu commenças ta vie
Tout au bord d'un ruisseau
Tu vécus de ces bruits
Qui courent dans les roseaux
Qui montent des chemins
Que filtrent les taillis
Les ailes du moulin
Les cloches de midi
Soulignent d'un sourire 
La chanson d'un oiseau
Tu prenais des plaisirs
A faire des ronds dans l'eau

Aujourd'hui tu ballottes
Dans des eaux moins tranquilles
Tu t'acharnes et tu flottes
Mais l'amour, où est-il ?
L'ambition a des lois
L'ambition est un culte
Tu voudrais que ta voix
Domine le tumulte

Tu voudrais que l'on t'aime
Un peu comme un héros
Mais qui saurait quand même
Faire des ronds dans l'eau
 
S'il y a tous ces témoins
Que tu veux dans ton dos
Dis-toi qu'ils pourraient bien 
Devant tes ronds dans l'eau
Te prendre pour l'idiot
L'idiot de ton village
Qui lui est resté là
Pour faire des ronds dans l'eau
Pour faire des ronds dans l'eau



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