(旧かなづかひと、ところどころ古風なる文体で)
どんよりと曇つてゐて
なんだかすごい空なのである
重苦しい空気のなかを
家路を急ぐわたくしなのであつた
湿つてきてゐる
夕暮れのなか
車道沿いにオレンヂ色の街灯がともり
それはそれで美しかつたが
疲れる一日だつたので
家に着いたら
ソファにでもからだを投げ出し
ちよつと眠りたいものだと思つてゐた
いく株かの
あぢさゐのわきを過ぎる
藍や紫の色の濃い
まことにいいあぢさゐであるが
夕暮れのひかりと薄闇のなかでは
しわしわにした紙細工のやうでもある
どんどん募る湿り気に
汗ばむでもないが
からだは重いのである
だがこんな瞬間が
生きてゐるといふことだ
くつきりとこんな瞬間を
こころに刻んでゆくことだと
ちつぽけな人生論を
また展開してゐる
わたくしよ
唯一
面会謝絶できない
絶交もできない
赤の他人よ
しわしわの紙細工のやうな
夕暮れのあぢさゐも
なんだかわるくないな
さびしさもあれば
不気味さもあるが
存在の神秘のなかで
しづかな
高雅な
とまどゐをしてゐるやうにも
見える
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