2012年10月3日水曜日

お母さんは眠りの世界



がらがらの昼のメトロ
優先席に
お母さんと
子ども

あたまにバンダナを巻いた
まだまだ若いお母さん
眠くて眠くて
ぱんぱんに膨れたビニールバッグを
倒れないように
両足のあいだに挟み
膝には他のバッグを乗せて
子どもの話に応えながら
目は小魚のようにゆるゆる泳いで
すぐに寝入ってしまう

子どもはガシガシ
ギシギシ
ギーギー
ギュウギュウ
やかましく音を立てつづけながら
山手線の模型を
窓のわきの台に走らせ続けている

うちに帰ったら
なにかやりたいことがあるらしい
ロボットのような日本語で
ようやく順番に並べられるようになった
単語と単語をぎこちなく話しながら
帰ったら
お母さんとなにかしようと
言い続けている

けれども
力いっぱい押しつけられながら
前後に走らされている電車模型の
ガシガシ
ギシギシ
ギーギー
ギュウギュウ
のせいで
お母さんの耳には
よく聞こえているのだか
いないのだか

途中から
子どもに反応することもなくなって
口をぽかっと開け
座ったまま

お母さんは眠りの世界

ちょっと
頬にうす紅を挿しているから
むかしのハニワのような顔になって
荷物はしかし
ちゃんと支えながら
ぽかぁっと

お母さんは眠りの世界


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