2012年10月9日火曜日

この世界で終わりではない



This world is not conclusion
Emily Dickinson




起きているのに
意識の底に
夢が続いていることはあるのか…

こちらのことなど
まったく認めもしない頑固な詩人が
あたらしい詩集を送ってきた

こちらも
その詩人の作風は
どんどんダメになるなあと
思っているのだが
いつもいいところをさがしては
褒めることにしているので
むこうは
どう思っているのだか

またつまらないのが
並んでいるんだろうと思いながら
ぱらぱらめくると
なじみのある
こちらの詩が並んでいる
おや
どうしたことかと
本ぜんたいをよく見ると
その詩人の作品はひとつもなく
賢治だの
なんだの
数名の詩人のアンソロジー
そこに
こちらの詩のアンソロジーも
入れてあるのだ

あんなに自分だけを貫き通し
こちらには
抵抗の姿勢ばかり見せ続けたひとが
どうしたことか
自分の詩を載せず
他の詩人のアンソロジーを編み
そこに
こちらのものまで入れるとは

…こんな一連の映像が
仕事にむかう道で
ふっと強風のように
からだの奥の遠くから浮んで
過ぎて行った
夢など見ていたわけではないが
意識のカーペットの
どこかの裏で
細くながいながい蛇のように
続いていた
夢の支流だったろうか

あの詩人も死ぬんだ
と思い
もっと交われることも
できたはずだがな
もっと
やわらかい心だったらな
と思ったが

しかたがないこと
この世では
ちょっとしたことの数々が
いろいろな成就を
邪魔する
と思いおさめた

この詩人の編んだアンソロジーに
入っていたかどうか
ディッキンスンの詩句が浮かび
外と内を区切る
頭の皮膚や骨の壁など
意にも介さずに
流れて行った

〈この世界で終わりではない
〈続きがむこうにある
〈見えない、音楽のように
〈が疑いようもない、音のように
〈それは手招きし、挫く
〈哲学ではわからないから、
〈結局、謎のなかを、
〈智慧は通って行かなければならない

This world is not conclusion;
A sequel stands beyond,
Invisible, as music,
But positive, as sound.
It beckons and it baffles;
Philosophies don’t know,
And through a riddle, at the last,
Sagacity must go.


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