以後、彼の動静は知れず
しかし消息を絶ったわけでもなく
転居したわけでもなく
なにか災厄に見舞われたわけでもなく
日々、瞬間瞬間の充実のため
最大限の集中を心がけ
早朝の静けさ
昼のざわめき
夕べの哀しみを
飽かず受けとめ続け
あたうかぎり世間との交わりは減らし
空の色の変化と
花や草のさまざま
山や森の遠いすがた
水の流れ
海より寄せる波の
永遠
それらを見続け
聴き続けて
…さあ、まだ生きているのか
病院にでも入ったのか
もう死んでしまったのか
誰にもわからず
名前どころか
顔も
すがたも
振る舞いも
もう街や通りのどこにも
跡を残しておらず
しかし
いなくなったわけではなく
はじめから
いたわけでもなく
日々の
ひかりと影の
うつろい
その隙間から
いつも
きっとまなざしを
世界の
すべてのものへ
ところへ
放っている
以後の
彼
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