冗談から前世の話など出ると
たいていの人が言うのは
じぶんが貴顕の誰それであったかも
なかったかも
その時代
その国に生れていたとしても
無名のひもじい誰それだったとは
どうして
誰も想像しないのだろうか
何十回ものじぶんの前世がわかっているが
わたしはいつも
ひもじく
時にはさもしく
もちろん無名で
悲惨な死にかたも何度もしてきた
それでも
ついひとつ前の前世は
比較的よくて
つましいものの
ほそぼそとした女の正直な人生
思い出すたび
少しうすら寒くて
こころ細くて
でも
すっと通った枯れ藁のようで
けっこう気に入っている
替えの衣類にも事欠くような
貧乏な家庭で
わたしの生は洗濯と
機転をきかせた食事つくりと
気の抜けない子育て
乾き気味で白っちゃけた肌をして
家業に打ち込んでいた夫の
痩せた背が灯に影を持つのを
よく覚えている
わたしの今は
そこからじかに来ている
なにも家のことなどせずに
安楽に生きているなどと見る人がいるが
家事のほとんどをし続けて
外に出る仕事があろうとなかろうと
毎日数度の洗濯と
大根やキャベツや油などの重い買い物も
仕事帰りにはほぼ毎日
すこし遠くへまわって魚を買い
安売りの時にはほうぼうに買い出しに出て
そうして睡眠時間を削って
本を読んでいるとは
誰も思わないものらしい
前にやっていた貧しい主婦の人生の頃
わたしのしたかったことは
少しは読みたい本を読み
少しは心情や思いを書き記したいということ
神さまのおかげで
そんなちっぽけな願いも
今生ではちょっと叶えることができ…
感謝しています、神さま
わたしは
今生もほんとに
しあわせに
素朴に
生きさせてもらいました
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