2013年3月25日月曜日

万国の三文詩人万歳!





ほんとうのことを言おうか
たまには

わたしもいつもひどく馬鹿にされている
わたしもいつもひどく嘲笑されている
過去の基準にあわない
詩のような書きものを大量に書き続けているから
そうして高い費用を捻出して本にするわけでもないから
あいつは自己満足で書いているだけだ
それにしても多量に次から次と
よくまああれだけの自己幻想と執着があることよ
などなどと

わたしも20世紀から21世紀の日本語を体験しに
もうだいぶ前
あまりわたしにあわないこの地と時代に来た
訳しようもないわたしの内なる言語と
現代日本語をぶつけてどのような軌跡が出るか
それを体験しにきたので
買い取り式で版元だけを富ませるような本を
作る必要はわたしにはもともとない
たまにはそんな物資的道楽も御愛嬌だろうが
高い金を出して詩集を出すひとびとをたくさん見てきて
十年二十年も経てば
だれの本も名も残っていないのを知っている
残るのはごくわずかの
バブル期あたりまでの波に乗ってきた名だけ
けれどもそれらのわずかの名の中でも
ほんとうにそこらの書店にあり続けるのは
タニガワシュンタロウさんだけ
このあいだ岩波文庫に自選集が入り
それはそれで彼をむかし詩壇にむかえた三好達治のようだが
手にとってぱらぱらしてみて
驚くほどつまらなくてすぐに置いてしまった
かつての角川文庫版のほうが楽しかったし
集英社文庫の数冊のほうが網羅している
岩波文庫のあの活字や組み方が
なんといってもタニガワシュンタロウしていないのだな
それよりなにより
30代にはほんとうの霊感を失ってしまったこの人のものは
それ以前の若い頃の詩集だけを読めば鮮やか
彼の詩が大好きだという人に聞いてみればわかるが
中年以降の彼の詩なんてだれも読んではいない
読んでも好んではいない
タニガワシュンタロウにしてこのありさま
あとは以て想像すべし
現代社会のぎりぎりの神経を体現した異常な人たちの
かわいそうな書き遺しだよねと
これはまあ
ふつうの生活者たちの感想

かりに五百冊作っても
読んでくれるのはたぶん二十人程度
まあ五十人ほどは開いてくれるとしても
五年後に保持してくれているのなど
たぶんたぶん五人程度
それも病気や死とともに
BOOK OFFや古書店に
あるいはじかにリサイクルゴミに吐き出され
はい
さようなら

現代日本語体験をしに来た者が
いつまでもいつまでも大量に書き続けるにはどうしたらいいか
わたしは一九九〇年に計画を練り
いずれ書物は重要性を失い
情報的なまとまりのみとなるだろうと予想した
ほぼその通りに進んでくれて
ありがとう現代
世界よ
一冊出版するのに要る百五十万を
しっかりと他の用途につぎ込んで
思えば豊かな物質生活も享受してきた

わたしをひどく馬鹿にしひどく嘲笑するのは
詩人たちでなどなく
大学の文学の先生たち
創作をする者がほんとうに許せないらしく
やれマラルメで詩は終わっているうんぬん
やれボードレールを超えることはできまいにうんぬん
やれバイロンのバイタリティーうんぬん
やれ宮沢賢治の澄んだ魂がうんぬん
彼らはランボーと聞けば一瞬に陶酔してしまうが
パウンドなど開いたこともなく
ウィリアム・カーロス・ウィリアムズなど聞いたこともない
アポリネールまではいくらか認めても
その後にサンドラール転回が起きたことや
まるで戯言のようなプレヴェールの詩が革命であったのを知らない
せいぜい象徴主義までの権威の象徴たる詩人たちを
神か十戒のように押し戴き
せこせこ紀要論文や
課程博士論文などをお書きになり
それはそれでけっこうではあるとしても
その先みずから詩作なさるでもなく
べつの詩人たちの読解に乗り出すでもなく
週に二三回の出勤をするだけで
年収八00万から一二00万以上の優雅な教授生活
あとはいいワインを買って愉しんだり
ちょっと郊外に新居を作ったり
子作り子育てにはげんだりと
ランボーにチクッてやりたいようなブルジョワ生活
シャルル、
アルチュール、
ステファヌ、
おまえらこんな連中のために書いたんだぜ
そう言ってやりたくもなるが
言わないよ
彼らはただの
紙の墓碑銘だから

こんなわけでここにはここの政治学がある
地政学がある
文芸はどうこう言おうが所詮は道楽
あるいは引かれ者の小唄
祭り上げられた過去の一詩人の重箱の隅をほじくって
それ以外の詩人の詩句を多量にランダムに読むのを諦めて
そうして専門家でございと偉がっても
待っているのは多磨霊園
待っているのは富士霊園
戦後や戦前の大学紀要をまぁ見てみたまえ
噴飯もの過ぎて
一場の楽しみになるやもしれぬが
どんなへたっぴいな詩だって
それよりは面白い
ぜんぜん面白い
創作の絶対的優位!
創らないやつは黙ってクソして寝てろってことさ

万国の三文詩人万歳!



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