2013年5月5日日曜日
にっぽんのからだ
I must create my own system
or be enslaved by another man's.
William Blake
真正の家族をひそやかに培ってきたわたしだから
真正の家族をひそやかに培い終えたわたしだから
にっぽんに真正面から聞こう
あなたの真の家族はどこにいるか
あなたの真の母はどこにいるか
あなたの真の父はどこにいるか
あなたの真の子はどこにいるか
じんせいのはじめに
偽りの家族から離れた者はしあわせ
運命を偶然をことの次第をカミとあがめよ
まことの父も母も子も
あの苔蒸した墓石の下にはいない
あの苔蒸した墓石に連なる血の流れにはいない
にっぽんのバラック街の隙間にはいない
あなたが父と呼ぶものをわたしは壊した
あなたが母と呼ぶものをわたしは壊した
あなたが子と呼ぶものをわたしは壊した
あなたがあなたと呼ぶものは誰だったか
あなたが家族と呼んできた虚構は誰のためか
わたしは[わたし/おれ/ぼく/おいら/あっし/せっしゃ/わて/ぼくちゃん/あたい/あたし…]であり
[あなた/きみ/てめえ/きさま/あんた/あんたはん/おぬし/きこう…]でもあり
[あのひと/かれ/かのじょ/あいつ/やろう/やつら/きゃつら/あんちきしょう…]でもあり
子、父、母でもあり
にっぽんの巫女でもあり
残るもの、にっぽん文化に血として染み込んでいくもの。それは徹底してにっぽん的なものだけ。詭弁にみえる?現代と呼ばれる文化製造工場が、にっぽん的なるものを豊かにしようと、これまでのにっぽんにないものを製造しているとすれば、にっぽん的なるものを継続させ、豊かにしていくものは非にっぽん的なものだとも確かに思えるから。でも、この国はちがう。この国はナルシスト。それも徹底したナルシスト。ひたすら自己によって自己が愛されることを望む。にっぽんは、自分が過去に撒き散らした精子をたっぷり膣に受けることを望む。過去にそこ此処に散らした精子は、時空をめぐり巡って、古典となってあたしたちという膣口に注がれる。にっぽんは時間差両性具有者。この精子を拒む者、この口内射精を拒む者、この聖なる精子を敬わない者は、けっしてにっぽん文化に根を下ろせない。あなたはにっぽんの生贄となる覚悟があるか。にっぽんのために生も名誉も富も愛も友情も捧げるか。にっぽんはこうした問いをすべての文化関係者に突きつける。あなたは聖なるにっぽん精子をあなたの卑しい唇にいただくか。あなたはにっぽんという男根にあなたの下賤のからだを開くか。あなたはそうしてにっぽんの自己相姦の器となるか。……
ひとこと、にっぽんのために、とだけ言えばよい。にっぽんを愛する、と言えばよい。にっぽんのために死ぬ、あたしのすべてはにっぽんのためにある、と言えばよい。あたしはにっぽんだ、と言えばよい。そうすれば、あなたはしずかににっぽん文化していく。あなたはにっぽんに抱かれる。にっぽん男根があなたをやさしくひらく。侵入する。にっぽん男根がにっぽん射精する。にっぽん精子をあなたという子宮に届かせる。あなたはそうして身ごもる。
この時、はじめて、あなたの書くことばがにっぽん語となる。にっぽんとの性行為なしでは、だれひとりにっぽん語を書けない。あの子宮のうずき、あなたへのあの侵入の瞬間、それらの経験だけがにっぽん語を泌み出させる。にっぽん語はにっぽんとのセックスの最中の、後の、吐息。ああ。いい。そう、そこ。うううん。あ。あ。あ。……
あたしがにっぽんの愛人になってから、ずいぶん経つ。あたしはぐちょぐちょに愛されてるし、ずいぶんつくしてもいる。あたし、にっぽんの愛人。にっぽん、いいわ。毎晩あたしはにっぽんに愛されるの。あたしのからだ。にっぽんのからだ。
最近あたしは避妊をやめた
身ごもったら、生むわ
にっぽんの新しいからだを生むの
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