心の友は稀なるものなり
葉隠
ひとになにか通じると信じて
書き継いでいるように
まだ見えるのか
わたしが
それをうかがわせる短信が来たが
返すことばもなく
日当たりのいい
きょうのヴェランダを眺める
バラがたくさん蕾をつけて
なだれるように
いっせいに
開花する少し前
これからはじまるものの
いきおいある庭や
ヴェランダをまだ持っている
よろこび
ほかのよろこびなど
もうないけれど
なににもまさる
過分のこのよろこび
ひとと通じようなど
思わなくなった人たちとなら
出会うよろこびも
あるのだろうか まだ
だれにも伝えるべきこともなく
だれからもなにも望まない
人びとは移ろう風景
いいも悪いもなくたゞ移ろう
生れてしばらく肉を生きて
肉の崩壊に向かっていくだけ
悪くなろうがよくなろうが
世の中はめぐり続ける
金、安楽、慰安と思い出
人びとはそれらをめぐり続け
しあわせだったの不幸だったのと
絶えもせぬおしゃべり
しゃべり続ける人びとが逝っても
もう少し若い体を持つ他の人びとが
すぐにひきついでおしゃべり
賑わいとか文化とかそれは呼ばれ
街の広場のあのカフェに
あるいはあの別のカフェに
コーヒーの香りをともなって
坐りに行こうか 夕ぐれ
おしゃべりする人びとにまじって
しないで坐っているわずかの人びと
夕べの色が沁み上がってくるのを
黙って見ている最後の仲間をさがしに
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