2013年5月3日金曜日

最後の仲間をさがしに





            心の友は稀なるものなり
                              葉隠




ひとになにか通じると信じて
書き継いでいるように
まだ見えるのか
わたしが

それをうかがわせる短信が来たが
返すことばもなく
日当たりのいい
きょうのヴェランダを眺める

バラがたくさん蕾をつけて
なだれるように
いっせいに
開花する少し前

これからはじまるものの
いきおいある庭や
ヴェランダをまだ持っている
よろこび 

ほかのよろこびなど
もうないけれど
なににもまさる
過分のこのよろこび

ひとと通じようなど
思わなくなった人たちとなら
出会うよろこびも
あるのだろうか まだ
 
だれにも伝えるべきこともなく
だれからもなにも望まない
人びとは移ろう風景
いいも悪いもなくたゞ移ろう

生れてしばらく肉を生きて
肉の崩壊に向かっていくだけ
悪くなろうがよくなろうが
世の中はめぐり続ける

金、安楽、慰安と思い出
人びとはそれらをめぐり続け
しあわせだったの不幸だったのと
絶えもせぬおしゃべり

しゃべり続ける人びとが逝っても
もう少し若い体を持つ他の人びとが
すぐにひきついでおしゃべり
賑わいとか文化とかそれは呼ばれ

街の広場のあのカフェに
あるいはあの別のカフェに
コーヒーの香りをともなって
坐りに行こうか 夕ぐれ

おしゃべりする人びとにまじって
しないで坐っているわずかの人びと
夕べの色が沁み上がってくるのを
黙って見ている最後の仲間をさがしに




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