科学的に説明はつくだろうが、 先日のインスタントコーヒー現象も奇異な現象に感じられる。 カップ(1)にインスタントコーヒー(2)を入れ、 熱湯を注いだ。少しヤカンを傾け過ぎたらしい。 カップに落ちていく湯の速度が上がり過ぎ、 カップの反対側を湯が駆けのぼって縁から上がり、 多量ではないが外に零れた。カップを退けると、しかし、 外に零れていたのは透明な湯だけで、これを拭った布巾はコーヒーの色に染まらなかった。 カップの中のフリーズドライコーヒーの下を潜って、湯は、 コーヒーを溶かす暇もないままにカップの外に零れたらしい。零れ出た透明な湯の跡や汚れていない布巾を見ながら、 しばらく心は小さな動揺を続けた。 少し脇に退けたカップにはフリーズドライコーヒーが溶けて、 インスタントコーヒーに仕上がって湯気を立てている。 こうなるわずか前の極小の時間の間を、 透明の湯は駆け抜けてカップの外に逃れ、こうして跡を残し、 布巾に浸透していったのだ。
(1)外径82ミリ、内径76ミリ、高さ70ミリの白いカップで 、唇の接する上の部分に帯状4ミリ幅の濃紺の模様線が描かれてい る。パンのチェーン店〈リトルマーメイド〉橿原神宮前駅構内で1 999年12月26日に貰ったもの(3)。
(2)MAXIM(味の素ゼネラルフーズ製)。 インスタントコーヒーは好まないが、 ドリップコーヒーを作る暇のない時に、 急場しのぎで用いることがある。なお、 ごく最近読んだネット記事には、 ドリップコーヒーには発がん性がないが、 缶コーヒーとインスタントコーヒーにはあるとわかったという話が あった。
(3)この日、橿原オークホテルに朝に着いて荷物を置き、 当麻寺と二上山に向けて出発する際に昼食用にパンを買ったが、 ちょうど何かのキャンペーン中ということでこのコーヒーカップを プレゼントされた。故人となったエレーヌ・ グルナックと一緒だった。前日には長谷寺と室生寺を訪ね、 桜井駅前ビジネスホテルに投宿していた。 荷物を増やしたくない二上山行の直前に貰ったこのコーヒーカップ を私はしぶしぶリュックに捻じ込み、エレーヌに「こんな時に、 こんなもの、要らないのに」と言った。 当麻寺では奥の院で庭師と長く話した。 二上山へは雌岳から上った。途中、気温が低下し、 空もどんよりと雲に覆われたと見る間に霙となった。 雪の吹きつける中の登山となり、 何度も登った二上山の光景の中でも忘れがたい光景が続いた。 雪嵐の中ながら、雄岳にも登って無事に下山した。 夜は橿原神宮前駅構内の「利久」で夕食をとり、 ローソンで買い物をし、ミスタードーナッツ(4)でコーヒーを飲 んでホテルに戻った。
(4)この日、1999年12月26日には、 早朝にも桜井駅近くのミスタードーナツを利用し、 そこで朝食をとったが、エレーヌと口論をした。 やや不慣れな店員に対して彼女が厳し過ぎる言い方をしたので、 それを少し諫めたのが発端だった。
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