2014年6月5日木曜日

平成東京六人衆東京駅6番線ホームの場


  
ある日会いそうな気もするが
発泡スチロールで間に合わせに作った犬小屋が
夜中の大風に飛ばされて
たぶん北京など軽々と上空を越えて
砂漠のほうまで行って
ようやく着地したと見る間に
ほがらかな顔をした
ちょっと馬鹿づらともいえそうな太古の少年が
ずいぶん長い時間
次々飛んでくる雲を
なんにもしないで眺め続けていた
ご飯すこし前の真昼の
これはなんという土地だろう
その日会いそうな気もけっこうするが
星野るり子という名が
どうしてだか頭に浮かび続けて
犬小屋を失った柴犬のハナコがなんと
北京まで(どうやって行ったのだか)たどり着いて
なんとかいう中国人の太ったオジサンに
しかたないからなんとかいう星雲の話でもしましょうと
語りかけたがオジサンは眠ったまま歩いたり
仕事をしたりトイレまで入ったりする人だったものだから
ハナコの話など通じようもなく
太古の少年が見つけたのは雲のどこかから
落っこちてきた発泡スチロールで
もちろん太古のことでもあったし彼はすっかり雲のかけらが
落っこちてきたのだと思い
星野るり子…とつぶやいたりして
この日会いそうな気もするが
まだ会わないハナコと星野るり子
オジサンは眠ったまま
どうしたことか
歩いて砂漠のほうへ旅に出たくなり
たぶん夢を見ていて
たしかに夢を見ていて
アシカに夢を語りにいくのだと寝言をつぶやきながら
踏み出した地面に埋まっていた星野るり子の顔
眠っているオジサンにはわからず
星野るり子の顔を踏みつけて
進んで行ったらもうカスピ海
ハナコが水に先に浸かっていて「こんなことはどうでも
いいのです。犬小屋を探しにきたんですから…」と
正気の頭でつぶやきながら
顔を踏まれたまま目を開きもしない星野るり子のことへなど
もちろん思い到りもしないで
就職活動をしなければならなくなった太古の少年が
カスピ海の水底の「株式会社かすぴ」から出てくると脚が
犬の脚が見えたものだから
グッと握りしめてみるとなんとこれが草薙の剣
どうして突然こんなところにニッポン!
と驚き叫んだのは星野るり子で
弾かれたように地面から飛び出して
勢いの衰えぬままに空を飛び
いったんは成層圏を抜けたものの舞い戻って
いよいよこの日
会いそうな気もしたものの
やっぱり会わないで
これまで登場した誰とも無関係に東京駅の6番線ホームの
中央付近にぽっつり立っている
日野田宗之君38歳
いったい誰と誰こそが会うべきか
会わざるべきか
わからぬままに風に乗って舞い戻ってきた発泡スチロールが
東京駅とはかけ離れた東京24区の瓦礫地帯の中に
時にひらひら
時にがつがつ
落っこちてくる間にけっこう大きな縫いぐるみに変わって
ついに着地したのを見ると
選挙用のタスキみたいな太い布に
ジークフリート田村麻呂と大書してある
こいつが究極か
こいつが究極の人格存在なのか
太古の少年は小便をもよおしたが我慢して東京駅のほうへ方向を変
矢のように進むその意志をはやくも受けてか
日野田宗之はウッと心臓に衝撃を感じた
右手で胸を押さえると
もさもさと音を立てて胸から出てきたのは星野るり子
と見る間に星野るり子の腕の腋から北京オジサン・ペキネンシス
するっとつるっと転がり落ちるように出てきて
ハッ、さては異国?!
とオジサンが思う様子をしっかり自販機の陰から見届けた
柴犬ハナコ
ぬぬハナコ、おまえまで
テレポーテーションの術を会得しておったか
ともかく太古の少年が東京駅にもう少しでたどり着けば
平成東京六人衆
東京駅6番線ホームの場の
開幕






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