疲れた腕をのばすと
ブルーの蛇のしっぽのようになって
持ち主のぼくなどお構いなしに
るるるると伸びていってしまったので
ちからを入れてひっぱりかえそうとしたが
ちからが入らない
もともと疲れた腕をしていたくらいだから
ぼくはもっと疲れてしまって
こういう時は濃いめの味噌汁でも飲んで
思い切って眠ってしまうんだと
台所に向かったのはいいが
腕はブルーの蛇のしっぽのように伸びたまゝ
それでももう一方の腕でお椀を出し
ワカメやネギを切ったり
小さな鍋に湯を煮たてたり
火を止めてから味噌を入れたりして
どうにか作れたので
いま濃いめの味噌汁を飲んでいる
伸びたまゝの腕の先っぽの
つまり手のひらや指たちのことだが
味噌汁を飲みながらそれらは
どうなっているのかと考えると
ちょっと懐かしいような気になってきて
腕の疲れが懐かしさそのものに感じる
あゝすっかり時代が変わってしまった
腕がまだ伸びていなかった時と
腕が伸びていってしまったついさっき以降とでは
時代どころか世界の様相が
ガクンと音を立てたように変わってしまって
そのガクンの後に今のぼくはいる
ともあれ味噌汁を飲み終わったら
伸びてしまって戻ってくる気配のない腕を
どう取り戻すか行動にでなければならない
とは思うものの味噌汁も片腕で作れてしまうくらいだから
ひょっとしたらなんでもできてしまうかもしれず
伸びた腕にはいっそ全幅の自由を与えようかとも思う
自分のからだだとかからだの一部だとか
思い上がったことを平然と言ったりしてきたが
伸びていった腕のほうでもぼくのことを
自分のからだとかからだの一部だとか
思ってきていたのかもしれないとすれば
事ここに至ればなんであれもう簡単に運ぶとは限るまい
持ち主のぼくなどお構いなしにブルーのしっぽのようになって
るるるると伸びていってしまった腕をひっぱりかえそうだの
どうしようだのとはまあなんと尊大な
と疲れながら思いはじめているところもあるぼくは
疲れて濃いめの味噌汁など作ってひとり飲んでいる被革命者あるい は
被反逆者で… いっそからだ全身ブルーになっちまえ!味噌汁も!
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