2014年7月1日火曜日

味噌汁ブルー



疲れた腕をのばすと
ブルーの蛇のしっぽのようになって
持ち主のぼくなどお構いなしに
るるるると伸びていってしまったので
ちからを入れてひっぱりかえそうとしたが
ちからが入らない

もともと疲れた腕をしていたくらいだから
ぼくはもっと疲れてしまって
こういう時は濃いめの味噌汁でも飲んで
思い切って眠ってしまうんだと
台所に向かったのはいいが
腕はブルーの蛇のしっぽのように伸びたまゝ

それでももう一方の腕でお椀を出し
ワカメやネギを切ったり
小さな鍋に湯を煮たてたり
火を止めてから味噌を入れたりして
どうにか作れたので
いま濃いめの味噌汁を飲んでいる

伸びたまゝの腕の先っぽの
つまり手のひらや指たちのことだが
味噌汁を飲みながらそれらは
どうなっているのかと考えると
ちょっと懐かしいような気になってきて
腕の疲れが懐かしさそのものに感じる

あゝすっかり時代が変わってしまった
腕がまだ伸びていなかった時と
腕が伸びていってしまったついさっき以降とでは
時代どころか世界の様相が
ガクンと音を立てたように変わってしまって
そのガクンの後に今のぼくはいる

ともあれ味噌汁を飲み終わったら
伸びてしまって戻ってくる気配のない腕を
どう取り戻すか行動にでなければならない
とは思うものの味噌汁も片腕で作れてしまうくらいだから
ひょっとしたらなんでもできてしまうかもしれず
伸びた腕にはいっそ全幅の自由を与えようかとも思う

自分のからだだとかからだの一部だとか
思い上がったことを平然と言ったりしてきたが
伸びていった腕のほうでもぼくのことを
自分のからだとかからだの一部だとか
思ってきていたのかもしれないとすれば
事ここに至ればなんであれもう簡単に運ぶとは限るまい

持ち主のぼくなどお構いなしにブルーのしっぽのようになって
るるるると伸びていってしまった腕をひっぱりかえそうだの
どうしようだのとはまあなんと尊大な
と疲れながら思いはじめているところもあるぼくは
疲れて濃いめの味噌汁など作ってひとり飲んでいる被革命者あるい
被反逆者で… いっそからだ全身ブルーになっちまえ!味噌汁も!






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