1000行詩走
1996年版制作の後、 失われていった多くのものたちへの鎮魂のために
第三部:202行より219行まで
「ところで、お名前は?」
〔 とあたしはあのとききくべきだったかどうかいまもわからないけど きいてしまったきかずにはおれなかったどうしてもききたかったま るであたしのなよりもたいせつななみたいにおもえてどうしてもこ のみみでそれをうけとめこのしたでこのあたしのふたつのくちびる をとおしてまさつさせてふるわせてどうしてもおとにしてみたかっ たわからないわけなんかわからないけどそうしてみたくてそのなあ のひとのなだけはなにかとくべつなものあたしにとってかけがえの ないとくべつななのようにおもわれていいえおもわれてなんてそん ななまやさしいことじゃなくてもっとせいりてきみたいなことであ たしのからだでそのなをかんじたいっておもったといったほうがい いわねそうねそうねそうよねあたしよりあたしであるひとのなせい なるななんかそんなかんじでたえられないかんじがつのってもうだ めもうだめきかなきゃきかなきゃあたしぶんかいしちゃいそうたお れちゃいそうっておもってかくごもせずに( かくごなんていまおもえばこっけいないいかただけどあのときはほ とんどそのぐらいにしんけんだったのよねやっぱりうんめいのとき だったんだとおもうわうんめいががらりとかわるときってああなの だわあんなふうになんでもないことにすごいきんちょうしたりする ものなのだわ) まるでときをむかえたものながいじゅんびきかんをすごしてついに うまれでるもののようにかるがるとくちをいいえくちではなくって たましいをほっとはなれてでたのよ「ところでおなまえは?」 って〕
ところでおなまえは?
名づけえぬものです
なんてキザというより時代遅れでしょ
タロです
コロです
なんてサッと答えルのが
流行みたいですが
むろんそんなこたえ方
すでに生起してル物語の磁場に媚売って
棹さすことでしかないから
答えたのさ
「それが知りたきゃ、ついといで。
海峡の
波のくラさにゆラゆラと
もまれル鴎のなく声の
あのさびしさの隙々に
ゆルラゆルラとたゆとうて
いルのがおれさ
おれの名さ」
柝の音。舞台まわる。
うらぶれた商家のあつらえ。
さよこ おもえば冬の青森駅で
名をきいたのが恋のはじめ
あれからあたしはあの名愛して
やれいとおしやはずかしや
蕩けるほどの恋の年月
過ごしてきたのもはや幾十年
こども四人に恵まれたものの
あのひとはやがて旅に出て
あのときあたしが邪魔をした
海峡の冬のひとときを
もとめて家にもどらない
つれないひとと
ならしゃったわいなあ
ならしゃったわいなあ
入相の鐘わびしく響く。トそこへ
予告される 裏木戸から名づけえぬもの、
固有名詞、普通 からだじゅうに固有名詞や普名詞
名詞 つけ、元気はつらつという顔色で。
きっと
いつかは
きみの
パパ 名づけえぬもの これはマあ、
ただの普 ひさしぶりに帰ってみれば
名詞 なんだか今昔物語集とか
きみも 宇治拾遺物語にでも
普通名詞 出てきそうなわび住まいのわが家
トマト さよこ、さよこはおラぬか
とか おさよ、さよちゃん、戻ったぞや、
靴下 おマえの名づけえぬものが
とか はルばル北に東に西に
名刺 旅かラ旅の軌道を逸れて
貝 戻ってきたぞや、わが妹や
坊主(中断)
さよこ あの声は!
あ、あの声は!
嬉し、懐かし、切なし、憎し。
あたしをひとりあばら屋に
残して果てのない旅に
このあたり ひとり出かけて突然に
グルックの よくまあ平気な顔をして
「聖霊の踊り」 元気な顔して戻れたわいなあ、
挿入 元気な顔して戻れたわいなあ。
名づけえぬもの
マあ、そういうでない。いうでない。
このとおり、達者で
戻ってきたのじゃかラ、
いじけた顔など見せずとも
いいではないか、
な、いいではないか。
ここから
ヘンデルの 名づけえぬもの、さよこをぐいと
「クラヴィーア 抱きよせる。
組曲ニ単調」 二三匹、犬の遠吠え。しっぽりと。
よりサラバンド
挿入
名づけえぬもの さびしい思いを
おマえにさせてきたけれど
それも終わりの時がきた
わが名を名づけえぬものと
呼んで過ごした数十年
もとめもとめてきたわれの
(まるで 究極の名をついに得て
劇だぜ、 うれしい家路の幕切れと
これじゃ。
それも
たったふたり さよこ おなりかいなあ?
だけの
さびしい 名づけえぬもの おゝともさ、
舞台。 おなりあそばしたのさあ。
ほら、
よくさ、 さよこ それはそれは、
テレビの おめでとうございます
低予算の おめでとうございます
お笑い番組で おめでとう
やるような ございまする。
お手がるの ―なんていつまでも歌舞伎っぽ
しらけた してるわけにもいかないからね、
あれ。 なにがどうしてどうなったのか、
なさけないったら たら もうそろそろお言いってんだよ。
ありゃしない。 たら あたしもただの言葉だし、
あんなものを ら あんたも言葉、
地球は ら これ読んでるひとだって
宇宙空間に た つきつめりゃ、ただの言葉
放映してるんだから。 た 少なくともさ、
お? なんだ? たら 言葉の部分が読むんだからさ、
この「たら」の たら 言ってみりゃ、演じ手も
お 連続は? たら 書き手も読み手もみいんな仲間内でさ、
お それに たら だれも外部になんか出られなくてさ、
お 上じゃあ たら 籠の鳥のあたしたち、
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