洗面所で深夜ひとりで鏡にむかって歯を磨いていると
右側の暗い廊下に立ってこちらを覗いている男にふと気づき
こんな見知らぬ男が家の中にいることに驚いたが
男はまるで私などいないかのように
私など通過するような眼差しで洗面所から左側のバスルームまでを 眺め
どうも誰かいたように感じたが気のせいか…と呟いて
廊下を歩いて去って行ってしまったのだが
おかしいなこともあるものだとつらつら考えるうち
そういえば私はどうして遥か昔に引っ越してしまった家の
こんな洗面所にまで来て歯を磨いてなどいるのだろうと気づき
私は本当は今どこにいるわけなのかと考え直し始めたものの
どうしてもわからないまゝでともすれば未だに
そこ此処のいろいろな洗面所に出没しては歯を磨いてみたり
顔を洗ってみたりたゞなんとなく鏡を見つめてみたりしていて
時どき他の人に出くわすとお化けだとか幽霊だとか言われたりもす るが
私の姿はちゃんと鏡に映って見えているのだから
なんと失礼なことかと本当に思うのだが
他人にそれが見えているかどうかとなればもちろん
そこまでは私にはわかりようがない
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