2016年1月24日日曜日

髪を捨てよ


ぐっと寒くなった夜
大通りの 
人もまばらな信号で待っていると
となりに女が来て
立ち止り
通りを向いて
信号のかわるのを待っている

数日前や
数週間前にも
電車の中や
どこかの大きな駅の構内で
何度かすれ違ったり
隣り合わせた女たちによく似て
中背
染めた赤っぽい栗色の髪
髪に隠れてよくわからないが
丸そうな顔

髪は長く
よくまとまっていて
胸より下まで伸びている
もし裸なら
乳がすっかり隠れてしまうぐらい
房のように垂れている

どうして
近頃
おなじような女たちと
すれ違ったり
隣り合わせたりするのだろうと
思う

わからない

あたり前だが
わからない

けれども
こんなに豊かな髪は
大病の時や
死の近い時には
たいそう不便だろうと思えた
入院していたら
この髪は洗うのに不便だろう
女たちは病床では髪を諦めざるを得ない
髪への執着を離れよ
離れよ
それが幾ら数年後でも
数十年後でも
髪を捨てよ

もう信号がかわる頃
わたしは無言で
しきりに隣りの女に告げ
曇天を見上げ
近く遠くのビルを見
車の流れがヒタッと止まって
そこだけ潮の引くように不可思議に
横断歩道に空間ができるのを見て
隣りの女から
永遠に離れ
わたしだけの未知へ
踏み出した



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