2016年8月16日火曜日

命なりけり、とは


傘もなしに歩きに出て
河の端で降られ
十五分ほどはとくに激しい降りとなったが
カメラもなければスマホもなく
大事な荷物もなにもないとなれば
やはり降られるのは
なかなか楽しい

スポーツ装の上下で
もともと汗だらけでもあってみれば
雨に降られて困ることはない
いつもの道が
雨の下では雨の匂いを放ち
まだ青い草の匂い
もう枯れ出した草の匂い
それらが混じって
なかなか味わえない嗅覚の時間

雨に濡れて目がよく見えないのは
いつの雨降り以来か
奈良から室生寺に抜けて
山道にひとりで深入りしていった時に
急な豪雨に見舞われ
急流のような道を進んでいったことがあったが
あれ以来か
やはり明日香を歩いていて
天武天皇と持統天皇の陵の近くでひどく降られ
靴の中を池のようにしながら歩き続けたが
あれ以来か
高校時代に文芸の同好士たちとの芭蕉足跡探索のおり
比叡山から台風の豪雨の中を大津へ山下りしたこともあったが
あれははじめのころの経験か

とにかくも
猶も
よくぞまァ
ここまで生き続けて
この雨に打たれ
目をさんざん濡らされて
涙に揺らめき続けるような風景の豊かさを
恵まれたことよと思う

年たけてまた越ゆべしと思いきや命なりけりさよの中山

西行さん…

命なりけり、とは
ほんのちょっとしたことにも
思わされる
過去のあれこれの経験とこの今の重ね合わせへの嘆声

西行さん…

命なりけり、とは

命なりけり、とは




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