2016年8月19日金曜日

今になっても



世界でもいちばん
交通量の多い交差点のむこうから
あんな無頓着に
手を振ってきた彼女も

夕暮れ少し前の
午後の
地中海の浜辺を走り寄ってきた彼女も

寒い国の地方都市の
いつもの輸入食品雑貨店の
スパイス棚の前で
偶然出くわした彼女も

サン=マルコ広場の
広場のカフェのテラスで
つばの広い透けた白い帽子をかぶって
とびきり上等の
ロゼのシャンパーニュを飲みながら
待ってくれていた彼女も

わたくし
自身
でしかなかったのだろう

指の開きぐあいの
ひとつ

かすかな
瞳の
そよぎ

うなじの
ほつれ毛の
一本一本

どれ
ひとつ
なくなっていかないから

いつまでも

今になっても




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