2016年8月7日日曜日

そこに立たれていると見えないから座ってください



夜の土手は
花火見物の人たちで
けっこういっぱい

アスファルトの道の両脇は
夏草ぼうぼう
草に脛を
さわさわされながら
花火を見続ける

急に
肩をつんつんしてきたのは
浴衣の女の子
高校生ぐらいか
ひょっとして
大学生か

「あそこの後ろで
「わたしたち
「座って花火を見ているんです
「そこに立たれていると
「見えないから
「座ってください

え?

「じゃあ、ここに来たら、どう?
そう言ったが
もう
女の子は行ってしまっていた

奇妙な話
河のこの土手では
席なんか決まってもいない
みんな
適当に立ったままだったり
座ってみたり
場所を決めたかと思えば
また移動したり

座ってみて
前に人がいて見えづらかったら
場所を移動すれば
いい
だけのこと

いっぱい人がいるけれども
移動して座り直したり
立つことにしたり
そんな程度のことはいくらでもできるぐらいには
余裕がある
すきまは
いっぱいある

「あなたたちが
「場所を替えて座れば?
「あるいは
「立って見れば?

そう言いに行ってやろうかと思ったが
せっかくの散歩がてらの見物
言い負かしに行くほどのこともないかと思い
じゃあ
ちょっと座ってやろうかナ
と座った

なかなか
悪くないんだな
草の中に半身を突っ込んで
座って見る
花火が

この低さからの見えぐあい
悪くないもんだ
へえ
ヘンな成り行きで
おもしろい見方を見つけちゃった

そうして
子供の頃の背の低さで見た
記憶のかなたの
原初的な花火の雰囲気を
ちょっと
思い出すようだった

しばらくして
もうちょっと遠巻きに見ようと
立ちあがり
歩いて行く時に
さっきの女の子が座っているのを見つけた
シートを広げて
ボーフレンドかナ
男の子といっしょに座っている

まわりには人が何人も立っていて
ひょっとして
座っているふたりこそ
邪魔なんじゃない?

そう見えたけれど
こちらは
低い位置からの花火見物を
思いがけず
させてもらった手前
なにも言わずに通過した

私がいた場所に移って見れば
もっと広々と
見えるのに
そうアドバイスしてやろうかなとも
思ったけれど
まるで
ある場所にシートを広げることにした
じぶんたちこそが原理
とでもいうような愚かしさに
皮肉な敬意を表して
なにも言わずに通過した

シート原理主義っていうんだぜ
そういうの

それにしても
ボーイフレンド君よ
おまえも
男なら
「座ってください
とオレに
頼みに来いよな
カノジョに
頼みになんか
行かせんなよな



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