2016年9月9日金曜日

数学的な一点のように



ふいによみがえる小さな
光景のはじっこの
穴からひとつの時間に入り込むと
いつもの
あきれたようなまなざしで
ぼくを見つめる
まだ若いあの人の顔があり
大きかった居間の空間がひろがり
毎年毎年
ずいぶん選びに選んで買って
掛けた薔薇の写真のカレンダーが
いちばん大きな
壁の端に彩りを添えていて
その時間の中にはその時間が流れていて
しばし
ぼくは見つめる
その時間の中にいて
まだまだ
成長を続けているぼくを
本当はこちらに
すべての本質があると知りながら
小さな節穴に
なったかのように
あるいは
透明な
小虫にでも
なったかのように
これっぽっちの物語も
生の流れも
記憶の堆積もない
数学的な一点のように



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