2016年12月13日火曜日

ここから海は見えない



ここから海は見えない。

イエロー一色のクーペが停まっている。
フロントガラスが
空の藍色に染まっている。

クーペと
ここの間に道路標識がある。
赤く、丸い「停止」。
楕円形の「停止」やダヴィデの星型の「停止」、
あるいは
五芒星の「停止」に、
この先、
どこかで出会うことはあるだろうか。

快晴。
雲ひとつない。
あるかもしれないが、ここからは見えない。
石造りの建物の、
そう狭くはないが、
挟間の
空。

このカフェには、他にひとりの客しかいない。
歳はわからないが、
長い白髪、鼻下から顎にかけての立派な白い髭。
知的な人だとわかる雰囲気だが、
知が齎しがちな硬直さ、
愚かさは
感じられない。

安い白ワインを、私のテーブルに置いている。

少しずつ、啜るように飲む。
薄い、
水のようなワインが欲しかった
朝。

コーヒーは
午後以降に、
きっと、
何杯も飲むだろうから。

午前9時過ぎ。

藍色と呼べるほど、空の青が本当に強い。
この地は、
いつも、こうなのだろうか。

ここから海は見えない。

道の向こうに広場があり、
その向こうに、
また、道が続いている。
そこに
海があるのは、
知っている。

海がある、
とわかっているが、
ここから
海は見えない。

いちばん安いのを、
そして、
いちばん、軽いのを
と、
頼んで、
よかった

朝の軽いワインは、いい。
酒、
ではない。

ここから海は見えない。

停まっているクーペのイエローが
私の生の現在時だ。

あのイエローが
この瞬間の永遠のインデックス。




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