早く歳を取つて芝居一ツ見たくない様になつて仕舞ひたい。
永井荷風『歓楽』
昨年の年末は
おせち嫌いのぼくにしては
ちょっと
おせちのマイブームで
クリスマス頃から
もう
出始めたおせちを早々と買って
27日には
だいたいめぼしいところは
食べ終えてしまっていた
子どもの頃から
おせち嫌いで
正月の食べものは
なんだか
サビシイと思ってきたし
長くいっしょに暮らした
フランス人と
たいていは年末年始
フランスにいたから
むこうでは
クリスマスのごちそうを食べて
その残りを食べて
もう七面鳥やウズラのマロン詰めにも
飽きたから
そろそろステーキに戻ろうか
といったふうで
日本のおせちなんて
ちゃんちゃら…
というふうだった
ながい
ながい
あいだ
おせちを
まともに食べるようになったのは
歳を取ってきたからか
なにかを決定的に
手放してしまったからか
断じて
ふつうのニッポンジンにはならぬ
断じて
この国には同化しまい
そういう強固すぎるほどの戦いの意志を
どこかで捨ててしまったからか
それとも
戦略を柔軟なものに
変更するすべを身につけたからか
ところが
今年はなぜだか戻ってしまい
もう
おせちには
興味の
ミの字も湧かない
伊達巻や栗きんとんのあれこれを
矯めつ眇めつ見比べて
どれにしようか
いくつか買っちゃおうか
などと売り場で悩むことも
憑き物が落ちたように
もう
なくなった
なくなってしまった
たった一年で
なにがどう変わったものか
とにかく
もうすっかり
興味が落ちてしまった
ニッポン的な
年末年始なるものに
また
戦いのはじまり
なのか?
ニッポン的なるものとの?
それとも
さらに老いが進んだだけか?
感情のアブラがゲソッと落ちて
タンパクに
タンパクに
なっていくところか?
永井荷風が書いていたな
「私ァもう、全く世の中には飽きちまひました。
「早く歳を取つて芝居一ツ見たくない様になつて仕舞ひたい。
小説『歓楽』の中の
登場人物のセリフだけれども
本人の思いを
もちろん
ふんだんに染み込ませてあって…
こうも書いていたな
「得やうとして、得た後の女ほど情無いものはない。
「この倦怠、絶望、嫌悪、何処から来るのであらう。
本当に
「得やうとして、得た後の女」でないものなど
この世に
どれくらいあろうか…
こんなことを
真正面からべったりと語ってくれる
本音のオトナの文芸が
昨今
払底いちまってるじゃあ
ござんせんかぃ?
子どもみたいに
なんやかやと
応援歌っていうのか
励まし合いっていうのか
チープな
宣伝旗みたいなのを
ひょこ
ひょこ
立てる歌やショーセツや
ドラマばっかり
街の
盆踊り大会の余興の
シロウト演芸みたいに
八方美人の
誰にも口当たりの悪くない
ソフトな大政翼賛会みたいな
薄口の
口調ばっかりに
無限に
なり続けていくばかりで…
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