幸せと見えた大家族にも
衰退の時は来て
立派なアルバムが数十冊も
三代続いた輝かしい時間の数々を記録する
厖大なフォトを
口いっぱい銜えたまゝ
書庫の奥の棚に並んでいる
最後に残った二人
ひとりは
夫をはやく亡くし
三人もいた子供たちをも
かれらそれぞれの
働き盛りの壮年までに失った
老いた三女
もうひとりは
一生を通じ
縁遠かった末の弟
三女は
ひとりぼっちになったのを契機に
実家のがたがたになった
古ぼけた館に戻り
末弟は
一度も館を出たことがなく
ともに
もう70を過ぎて
よろよろと
家の中でも杖をついてさ迷う
残ってきたものの
すべて
いかにも古ぼけ過ぎて
かれら自身さえ
もう
それらには価値を認められず
新たに買ったものは
当座の便利さだけが目あての
今風の安物
もちろん
当座の使用価値以外に
価値など見出しづらいもの
こんなふうに
館の文物のどれにも
かれら自身
価値など見出せなくなっているのは
老いさらばえゆく今
逆に
慰みになるとはいえ
それでも
心のどこかで気にかかりつづけるのは
書庫の奥の棚に並んでいる
三代続いた輝かしい時間の数々を記録する
りっぱなアルバム数十冊
厖大なフォトを
口いっぱい銜えたまゝ
ていねいに
日付や場所を書き込まれ
時には感想さえ書き込まれ
結婚式
成人式
出生だの七五三だの
あらゆる行事のたびに
数を増やし続けた
膨大なフォトの数々
ヴィデオが普及する頃には
家族のほとんどが
もう亡くなっていて
若い者も生まれなくなっていたのが幸いで
ヴィデオテープや
DVDの類の記録はないものの
それでも
ポジばかりか
ネガもあわせて
書庫の三棚を占める
立派すぎる
時期時期最高のものを選んで
静かな夜を費やし
休日の午後を充てての
時間に時間をかけての
一家族三代を記録し続けた
美しいアルバム
三女も
末弟も
はやい夕食の箸をとりながら
ほとんど
口にはしないものの
心の奥では
いつかは
いつかは
そろそろ
そろそろ
1ページ1ページ
破り
引き裂き
燃やしなどして
処分しないといけなくなってきていると
思い続ける
美しいアルバム
厖大な家族写真の
あれら
気の遠くなるような数々
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