2017年2月27日月曜日

うつそみ*



防衛省のレーダー塔には
赤いひかりが
いくつか
シンメトリックに
ぽつ
ぽつ
ぽつ
灯っている

「マンションの物件の広告に
「おもしろいコピーがあったよ
「日本の守りの中心たる防衛省が傍だから
「どこより治安面で安心です
「なんていうのさ

「へぇえ
「東京をミサイル攻撃する側からすれば
「まっ先に打ち込む場所なのにね

夜になると
人もほとんど通らない道を
まさしく
ながながと
ながながと
歩き下って行く

大日本印刷のたくさんの社屋が占めているので
大日本山と呼ばれるところ
時どき
DNPという大きな字が目に入る

防衛省とDNPのあいだの道は
きっぱり
くっきりした
夢まぼろしの道のよう

DNPの建物群が
ずいぶん新しい
SFの都市の一部のよう

人口密集の酷さが取りざたされる東京なのに
この無人の世界はどうだろう
東京のど真ん中のひとつなのに
防衛省のあのレーダー塔が
ポンと一本
はっきりと夜空に
突っ立っている様はどうだろう

「場所がら
「ここをこうして
「通っていっているだけでも
「方々から多くのカメラに写されているんだろうね

落ち着きのない不定形の生を
運び続けている
わたくし
せめて不審者としてでも
無数のカメラたちは
定着してくれているだろうか

それとも
不審者でさえありえない
期間限定の生体の
うつそみ*として
影として
一度は録画するものの
ひと月後あたりには
すぐに自動消去してしまうだろうか

時どき
道を横切るノラ猫たちの影と
いっしょに

亡霊のようなわたくしの
夜の歩行も
うつそみの横切りも




*うつそみ 
うつせみの古形。「この世の人」、「生きている人」程度の意味だが、「現(うつ)し臣(おみ)」から生じた語源に遡れば、神代に対する現世、神に対するこの世の人などの意味あいで受け止められうる。奈良時代の終わり頃からは、「空蝉」「虚蝉」などの文字も当てられ、「はかないこの世」の意味も持つようになった。





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