夜も更けると
闇というより黒に飲み込まれて
周囲は
田畑
森
小川の音
酒はないので
井戸から汲んだ水を飲みながら
いくつか
詩集を繙いている
今にして
気づくようなのだ
詩は
つぎつぎ読み終えていくものでなく
どんな小さくても
眩しい光源を間近で見つめ続けたりしないように
凝視し続けるものでもない
数行追ったら
本を膝に下して
つまらないような昔の小さなことを思い出したり
部屋の壁の角のほうの蔭を見たり
そうして
またはじめから
行を追い直したりして
結局
小一時間しても
一編も読み終えた気になれなかったり
すべきものなのだ
と
人生はなんという急流
言葉は
そうして
なんという美しい小石の数々
今にして
気づくようなのだ
急流のなかで
なんども
詩のページを開いていたことがあった
たぶん
ろくに読めたともいえないが
読もうとしたり
読めなく感じたり
もう誰の物語とも知れないような
過去の自分の時間のあれこれに
川の岩を飛び飛びするように
思いは
戻っていってしまっていたり
ともかくも
詩のページを開いていたことがあった
そんなことの好きな人生だった
ページを開くことで
なにかに取っかかりを得ようとしたのか
引っかかりを求めたのか
それとも
たんに文字が好きだったのか
文字が思いの中に作り出す
とりどりの意味あいの万華鏡が好きだったのか
今にして
気づくようなのだ
詩のページはたゞ開くべきもので
開いていればいいので
開いたり
閉じたりすればいいので
読んだの
読まなかったの
わかったの
わからなかったの
そんなこと
どうでもよかったのだと
人生はなんという急流
言葉は
そうして
なんという美しい小石の数々
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