2017年3月1日水曜日

詩のページを開いていたことがあった



夜も更けると
闇というより黒に飲み込まれて

周囲は
田畑
小川の音

酒はないので
井戸から汲んだ水を飲みながら
いくつか
詩集を繙いている

今にして
気づくようなのだ

詩は
つぎつぎ読み終えていくものでなく
どんな小さくても
眩しい光源を間近で見つめ続けたりしないように
凝視し続けるものでもない
数行追ったら
本を膝に下して
つまらないような昔の小さなことを思い出したり
部屋の壁の角のほうの蔭を見たり
そうして
またはじめから
行を追い直したりして
結局
小一時間しても
一編も読み終えた気になれなかったり
すべきものなのだ

人生はなんという急流
言葉は
そうして
なんという美しい小石の数々

今にして
気づくようなのだ

急流のなかで
なんども
詩のページを開いていたことがあった
たぶん
ろくに読めたともいえないが
読もうとしたり
読めなく感じたり
もう誰の物語とも知れないような
過去の自分の時間のあれこれに
川の岩を飛び飛びするように
思いは
戻っていってしまっていたり

ともかくも
詩のページを開いていたことがあった
そんなことの好きな人生だった
ページを開くことで
なにかに取っかかりを得ようとしたのか
引っかかりを求めたのか
それとも
たんに文字が好きだったのか
文字が思いの中に作り出す
とりどりの意味あいの万華鏡が好きだったのか

今にして
気づくようなのだ

詩のページはたゞ開くべきもので
開いていればいいので
開いたり
閉じたりすればいいので
読んだの
読まなかったの
わかったの
わからなかったの
そんなこと
どうでもよかったのだと

人生はなんという急流
言葉は
そうして
なんという美しい小石の数々




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