瓶がある
置いて行ったままにされている
置いて行ったのはあの人か
それとも別の
もうひとりの人か
中にはもう何も残っていない
手に取って確かめてはいないが
底も乾燥しているように見える
わたくしに
と
残された
浦の
苫屋の
もの寂しい内部
網や
竿や
壊れた桶などがあるが
さあ
何に使えたものか
瓶には
なにを入れていたのか
ただの飲料水か
酒のたぐいか
それとも
油でも入れてあって
燈火にでも
使ったのだったか
外を覗いて
海のほう
浜のむこう
見渡して見ても
花も
紅葉もなく
縹渺たる
眺めともいえない
眺め
引き継ぐ
などと
大げさに
思うほどのこともない
苫屋
誰も荒らしに来ない
奪いにも来ない
わたくしが
わざわざ此処に残って
管理するほどのものでもない
しかし
何とでもしろと
与えられた
地上で唯一の
遺産
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