複声レチタティーヴォの連続のみから成るカンタータ叙事詩 (1982年作)
(第一声〔喚起〕)
これまで長いあいだ、わたしは自分の数知れぬはずの思い出の中に、ほとんど沈酔していたつもりだったが、ある時、ふとあらためて思い出を数えると、それがすでに十指にさえ満たなくなっていることに気づいたのだった。
わたしが無数の思い出に満たされていると信じ込んだがゆえに、これまでわたしに疎んじられ、認められなかった多くの声、今でこそ懐かしい声たちよ、おまえたちはわたしの妄挙のために、雨の日の郊外の風景のような独白を、各々みずからの世界に滲み入らせるだけになったが、しかし今、わたしはおまえたちを求め、おまえたちのさまざまな独白の入りまじり溶けまじる中に身を置こうと決めた。
声よ、語れ。
これまでに散っていった像に細い玉の緒のような手をのばすために、絶えぬ小雨の雨滴の軌跡の隙を縫って、遠いざわめき、ふるい映画に降る雨のあの懐かしいざわめきのように語れ。
わたしがこの世の習慣にしたがって、往々にして信じ込んでしまう、あの、時の流れという考えのために、とうの昔にいかなるしかたによっても手のふたたびは届かぬ彼方に流れ去ってしまったと、たびたび思いもしたあの物語、シルヴィにかかわるわたしの物語を語れ。
幾多の思い出、あると信じた数々の思い出は消え、残っているのはわずかの、それも漠としたゆらめいた風景を呈するにすぎないものなのだが、にもかかわらず声たちよ、わたしはまだぼんやりと憶えているような気もする。
雨が降っていた。
道はひどくぬかっていて、つめたい水をいっぱいに吸い込んだ靴がほとんどふやけるようにも思え、そのなかで足は、指の先からきりきりと刺し込まれてきたような冷たさになかば縮こまっていた。雨をふくんだ外套が重く、長かった髪はうなじにはりついて、その髪の背中へと垂れ入る先から水がしたたり落ちて、細いながれを肌のうえにつくっていた。
どこまでも同じ道で、空をあおぐとそのたびに異なる巨大な雲のかたまりが、あたかも大地とのあいだに途轍もない軋めきを生むかのようにして流れていった。
嵐だったにちがいない。
声たちよ、どうだ、そうではなかったか。
語れ、さらにはどうであったかを。
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