2017年8月28日月曜日

懐かしい人に自分までなってしまっているかつての幼児


 
台所流し用のそのゴミ取りネットは
包装ビニール袋の真ん中に開封線があって
そこを上下に引っぱると容易に開く

何度もくり返し購入し
ずっと使い続けてきていたのに
今までその開け口に気づくことがなかった

袋の端を切り開いて取り出し続けてきていて
この商品は便利だが開封は不便にできていると
いつも思い続けてきていた

こんなことはよくあるにしても
ずいぶんな頻度でこれが起こっていた時期が
思い出の奥にあったように感じた

その思い出の奥の奥に
ずいぶんひさしぶりに下りて行く
扉を開け引き出しを開け古い箱のひとつを開ける

あゝ、祖母のあのしぐさか…
チューインガムでもキャラメルでも
幼児だった頃に開けてくれた際のしぐさ

赤かったり透明だったりする開封テープが付いているのに
祖母は糊づけされた包装の端っこをいつも爪で剥がし開け
ずいぶん苦労しながら中身を出してくれた

幼児なのに私のほうが開封の仕組みには慣れていて
開封テープを抓んで引っ張っていけば
くるりと周回して開いていくのを知っていた

おばあちゃん、ここを抓んで
引っ張ればいいんだよ
と何度も何度も幼児のほうから教えてやる

あゝそうなの、いつも忘れっちまう
と言いながらテープ端を引っ張ろうとしても
祖母はそれをうまく抓むことができない

こんなちっちゃいところは抓めないよと
けっきょく包みの端を爪でガリガリやって
固い糊づけを剥がしていこうとする

思い出の奥の奥の扉を開けたまゝで
引き出しも開けたまゝで箱も開けたまゝで
かつて現代的開封方法の巧者だった私がいま立ち尽す

新しい開封方法が備わった包装の端っこを
いつのまにか爪を立てて苦労して開けようとしている
懐かしい人に自分までなってしまっているかつての幼児



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