2017年9月25日月曜日

異常なおそろしいさびしい不可思議な寓意画を

 
その展覧会には
名作だの
有名な絵だのといっても
30から40センチ幅の絵が多く
おおぜいの人が集まる場所で見るには
ちょっと小さめ

列を作って
ならんで見れば
いくらかはよく見えるが
そんな見方を律儀にしていたら
いったいどれくらい時間がかかることか
だから
人びとの列の後ろから
のぞき込んだり
目を細めたりしながら
サッサッと見てまわってしまう

ところが
そんなふうに見てまわるうち
群集して人びとが絵に見入っているさまが
期せずしてなんという寓意だろうかと
そちらのほうにこそ
感心させられてきてしまう

ずいぶんひどい誤魔化しだらけの
政治や経済や行政や食品や
それにくわえて
原発事故処理などのおかげで
これからいよいよ危うくなるばかり
心ぼそくなるばかりの
とある秋の日曜日
ボスやブリューゲルの寓意画に
ずいぶん生まじめに人びとは見入っているが
これこそがなんと
異常な
おそろしい
さびしい
不可思議な光景だろう

暗い絵…
という言葉を
ひさしぶりにふと思い浮かべ
なんだったかな
と記憶を探るうち
あゝこれは野間宏の
あの小説の題名…と思い出し
学生時代には必読書で
読んでいないのが恥ずかしいほどだったのに
今ではもう
そこらの書店には見つからない
忘却のかなたの本のひとつと
なってしまって…

それが
かえって
黒光りする玉のように
記憶の奥で輝き
とある秋の日曜日
ボスやブリューゲルの寓意画に
ずいぶん生まじめに見入る人びとの光景という
異常な
おそろしい
さびしい
不可思議な寓意画を
ふたたび照らし直してくれるように感じる



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