2017年10月2日月曜日

いま向かおうとするさびしさに先にわたしは心を貫かれて



気にかかっていた用事がひとつ終わったので
ふいに秋がさびしいことに気づいたのかもしれない
あの人が生きていた頃にもこんなことがあって
忙しくあの人は台所でなにか片付けをしているというのに
なんだか何もかもが終わってしまったようで
秋のせいなのかな、こんなにさびしいのは
と思いながらもあの人にはとうとう語りかけずに
ちょっとカーテンをめくって夜の庭を眺めてみたりした

あの人がもう生きていない今
秋がさびしいのはあたり前のことだけれども
ふいにそのさびしさが心に来たのはあたり前ではないようで
なにか見えないものが流れてきて胸のどこかに触れたのかと思ったりする
あの人が生きていたあの秋の晩のさびしさを
いま思えばあの人に語りかけておけばよかったように思う
あの人のことだからきっとこんなことを言ったかもしれない
何年も何年も経った後の秋のある晩のさびしさが
ひょっとして先まわりしてあなたに会いに来たのかしら…

そんななんにもならないようなことをなにより大事なことのように
静かに軽く言うことに秀でた人でいつも不思議な話に満ちていたけれど
もうそんな人はわたしのまわりにはひとりもいなくなって
時代のこと現実のこと仕事のこと人間たちとの関係のこと
あゝそんなことばかりで本当に本当にあの人がいないのはさびしい
あの人が言った何年も何年も経った後の秋の今夜になって
何年も何年も前のあの人が生きていた秋の晩へときっと
いま向かおうとするさびしさに先にわたしは心を貫かれてさびしい



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