2017年10月6日金曜日

出現

 
めったに上ってこない
デパートのレストラン階であった

日も暮れたものの
夕食まではしばらく間のある
いくらか
人もまばらになった
微妙な時間帯

車椅子を押す
いたく背の曲がった老人がいた
あまりに
背が曲がっているので
車椅子とほぼ同じ高さに見えるほど

本来ならば
この老人こそ車椅子に乗せられ
押されていくべきようにも見えるほど
よたよたと力なく
押していく

誰が乗せられているのかと
追い越しざまに見ると
…女性

とはいうものの
まず目に入るのは太い黒縁のメガネ
腿までむき出しの両脚
ソックスなし
ばらばらに散った長いゴマ塩髪

服はなにを着ているのか
Tシャツのようだが
その上になにか羽織っている
色や柄に配慮して着ているというのではなく
あり合わせのもの
杖を片手には握りしめて

老夫婦なのか…
それにしても
これはまた
ずいぶん変った一組
いたく興味をそそられ
もう少し追い抜いてからふり返ると
ずいぶんな老齢らしいのに
穿いているのはミニスカート
なのに
車椅子だからか
股をおっぴろげて
あられもなくパンツの白が開示されている

これは奇態な
奇態な
もっとよく見ておこうと
足をはやめ
もう少し距離をとってから
ふたたびふり返ると

いなかった!

通路の両隣りにはレストランの
店舗がいろいろ
しかし
ちょうど入口のないあたりで
どこかに入ることはあり得ないのだが

いなかった!

あのふたりは何者?
いたく背の曲がった
老夫らしい人と
脚を剥き出しにし
あられもなく股をおっぴろげた
老妻らしい人は?

幻か?
老いの幻?
それとも人間の真相の
一瞬の顕現?



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