2018年8月24日金曜日

本気ですこしでも近くなにかを伝達したいと思ってしまう時だけだが



こまかく話すのはめんどうだし
相手だってそんなに聞きたいわけでもないだろうから
見たことをだいぶ略して
たとえば

どう呼んだらいいかまったくわからないような帽子をかぶっていた
というより
頭にかろうじて置いていた
というより
帽子のほうでなんとか頭に引っかかってくれていたような
老婆
と呼んだらいけないのかな?
しかし高齢の女性などと呼べば大きくずれてしまうような衰弱感と
他方なんというべきか荒々しさもあって
驚くなかれ
背が二メートルは越えているようで
スカートを穿いてはいるのだが右側は地面に引きずっていて
左側は股のところで切れていて下着が見えていて
顔だって
驚くなかれ
頬のあたりの肉がまったく無くて
骨が露出していて
しかし鼻や目のまわりはふつうな肉づきで
明るめの紫とグリーン系のアイシャドーが厚塗りされていて…

こんな御婦人が
羽田空港の国際線発着ロビーを
きれいな毛並みのフォックステリアを連れて歩いていたけれど
ちょっと
よろよろしていて
大丈夫だろうかと思ったんだよ

大いそぎで病院へのタクシーに乗り込んだ友に
告げてみただけ

行く先の病院では
さっき自動車事故にあったばかりの
彼のガールフレンドが
かなり危ない状態で担ぎ込まれたらしい

背が二メートル以上ありそうな高齢の御婦人の
いろいろな細部を
こと細かく言葉で付け加えられなかったのは
残念でもないのだが
恐ろしい
と思ってしまう
友が病院に着くまでに
彼の頭の中で構築されていく御婦人のイメージが
まったく違ったものにしかならないのは
歴然としているから

本気で
すこしでも近くなにかを伝達したいと思ってしまう時の言葉の
使いづらさ
融通無碍さ
いい加減さ
自由さと無責任さ
には
慄然とする

本気で
すこしでも近くなにかを伝達したいと思ってしまう時
だけだが



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