2018年9月13日木曜日

ネクタイをしないことに決めた頃

 

ビジネス用バックパックの広告に
“けっして崩れそうになかった
ビジネスマンの定番スタイルさえ変えてしまった…“
というコピーがあった

ブリーフケースでなければ
せめてダレスバックでなければ
という縛りを
時代が超えさせてしまった
といった
ニュアンスで

もうしばらくすれば
サコッシュ姿さえ
ビジネスマンの定番のひとつに
なるだろうか

なっても
ならなくても
常識など
そんなもの
社会風俗など
そんなもの

満員電車で通っていた
二〇代サラリーマンだった頃
出社途中の車内で
ワイシャツはもう汗みどろになってしまい
しわくちゃになってしまい
スーツにまで汗が滲みていった
ある時
これに耐えるのをやめ
勤め先に着くまで
ネクタイをしないことに決めた
電車内も駅の中も
二度と会わないことの多い
未知の人体たちにもみくちゃにされる場所
シワのつかないようにスーツを着て
ちゃんとネクタイまでして
きちんとした姿を見せるべき場所というわけでもない場所
ネクタイなしのスーツ姿は
ヤクザの定番ファッションのひとつだったが
電車内でも駅の中でも
無縁の中でも最たる無縁の場所だから
ヤクザっぽくに見られて困ることはあまりない
むしろ得をすることのほうが多い…
こういう判断を
自分ひとりで編み上げた結果だった
おかげで
なにもかもが楽になった
上着もはじめから脱いでおいて
シワにならないように畳んで
軽いセカンドバッグに入れて行けば
さらに軽快に通勤できる

しばらく経った頃
官産一体となって仕掛けた
クールビズの風にも乗ったのか
ビートたけしのような人が
ネクタイなしでスーツを着るようになった
そうすると
なだれを打ったように世間はネクタイなしに流れる
ニッポンの世間などというのは
いつもこんなもの
ニッポンの常識というのは
いつもこんなもの

“なぁんだ、みんな、
ぼくのマネをしただけのことじゃないか…“
とずいぶんとバカにしながら
ネクタイなしのビジネスマンたちを
今のぼくは見ているが
じぶん自身は
そろそろ
猛暑の夏も冬も
ぴっちりネクタイをする着かたに戻ろうかな
と思ったりしている

いや
どうせ戻るんなら
キモノさえ大きく踏みこえて
古墳時代や神代に戻ろうかな
弥生時代や縄文時代のファッションをしたりすると
ひょっとして
今のグッチあたりの最新ファッションや
ストリート系や
ホームレスファッションに
近づくように
見えるかもしれない



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