2018年9月30日日曜日

温帯低気圧に変わっていく頃

  
2011年から
列島をすっぽり覆うことになった
ふつうの台風とは
比較にならないほど大きな
あまりに大き過ぎて
感じることさえできない人びともたくさんいるらしい
超巨大台風も
2056年頃には
温帯低気圧に変わっていくことだろう

すべては過ぎ去っていく

温帯低気圧になった後の時代の人びとは(もし人が
まだこの列島にいればの話だが…)
21世紀型の長期に亘る巨大戦争の時代だったと
21世紀前半の5、60年ほどの間をふり返り
20世紀にはこの列島の日本語国家が
経済的にずいぶん繁栄していたこともあったのだと
リアリティーのない奇妙な
ちょっと証明の足りない不確かな歴史話を
夢物語のように聞かされて
紫外線を遮るものも激減している青空を見上げたり
魚介類も海藻も食べるのを禁じられて久しい青い海を眺めながら
まだまだたくさんのコンクリート廃墟の残る
虫歯の後のような列島で
草木や虫など食べられるとはいえ
だいたいは空腹を耐えて生きるほかない日常に
すっかり心をぺちゃんこにされながら
とにかく
昔ここにいたらしい人たちは
避けようと思えば避けられた災害や世の崩壊をまったく避けず
ずいぶん愚かで
ただ黙って滅びに向かっていくだけだったのだと
どうしても思ってしまうことだろう

ずいぶん文明は進んでいたとも聞くが
どこかの時点からあらゆる記録が失われ出し
たとえそれが残っていたとしても読み解くすべがわからなくなり
草木や虫などしか食べるものがない自分たちが
ひょっとして
もっと他のものを作ったりできるかもしれない可能性も
すっかり失われてしまったのも
昔の人びとのせいなのかもしれないと思うものの
さあ
ほんとうは誰のせいだと考えたらいいのか
誰のせいでもなくて
よくお爺さんが言ったように
事のなりゆきということでしかないのか
そう考えるべきなのか…

とにかくも
毎日毎日つよい日差しの太陽の下で
日中の温度が40度を下ることのない列島に居られるだけでも
なにも着なくていいのだし
熱帯ならではの植物が繁茂して
食べられる実もいっぱい得られるのはありがたいと思えば
いろいろなことが昔にあったのだとしても
べつにかまわないかなと思えてくるのだった

使い道のよくわからない尖った大きな塔がいくつか
汚れてぼろぼろになってまだ立っていたり
コンクリートでできた巨大な蛇のようなものが
複雑に入り組んでのたくっている場所もあったりして
どれも蔦に巻きつかれて近づけないけれども
あららは昔の人びとの宗教的な祭壇の一部だったんだろうか…

などと思いはめぐり
めぐり
めぐりするうちに
ただ草木や虫などを食べているだけの人体の脳内に
世界についてのまとまった考え方のつくり方がまたでき始めてきて
やがて
ふたたび新たな民族主義の方向へ
新たな戦争の方向へ
新たな殺戮や差別や他者の家畜化や型に嵌った思考と感受性の窒息の方向へ
向かい始めていこうとしている

あゝ、素晴らしき新世界よ!
あゝ、素晴らしき人類よ!




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