あぶなくはないが
下手に関わっていると結局はたいへんなことになる
うすい
あわくさえある
どこかスミレの野原を思わせさえする
あこがれのように
こころよくさえある影が
また
すぐ間近まで近づいてきていた
どうしようかと思ったが
むやみにひかりをあてて無きものにしたり
へんに馴染んでみたりして
飼いならしたつもりになろうとしてもダメなので
やゝつよい風のなかで
長めの髪を乱されすぎないようにしようと
瞬時瞬時からだの向きを変えたり
背をたえず屈めたり伸ばしたりし続ける時のように
あるいは
大きな段ボールや凧を抱えている時に
なんとか風の抵抗を低めようと
向きを変え続けるように
定まった姿勢を影にたいして取らないように
やっぱり努めることになる
これだって
やりようによってはずいぶん疲れてしまうし
まるで春の野歩きのようにうきうきと
ひとを楽しげにさせつゝ
奥深いちからを根こそぎ奪っていくのがこの影の特徴だから
なにより
こんなやりようで
余計に疲れさせられないようにする必要がどうしてもある
そうとなれば
やはり
見ているような
見ていないような
感知しているような
いないような
そんなしぐさを
これ以上ないほど軽くかるくしていく他ないので
傍から見ると
まるで小蠅かなにかを小さく追い払っているように見られ
ちょっと踊りの所作をおさらいしているような
のんびりと優雅なふうにも思われたりする
かげろうの羽が陽を受けて
木板の上にあわい翳を落としているような
そんな影には
じつはやさしい花園から流れてくるほのかな芳しさもあって
これに付きまとわれていると
うっとりしてくることさえあるのだが
いけない
いけない
と気を取り直し
鏡に映ったじぶんを確かめ直そうとしたりすると
顔がすっかりなくなってしまっていて
いったい
なにを守るために
こんなにこころよい影と戦い続けていこうとしているのか
また
あやふやになりかけてしまう
わからなくなってきてしまう
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