2019年4月1日月曜日

弔旗弔旗弔旗弔旗弔旗弔旗弔旗弔旗弔旗……



平成とは
まぁ
なんてぺらぺらな元号
発表の時には思ったものだし
それがまた
ぺらぺらな感じの代表格の小渕恵三が
あんなふうにテレビで字を見せたりもしたものだから
いっそう
ぺらぺら時代のはじまりだな、こりゃ
と確信したものだった

戦争責任を取らないまま死んだ天皇は
死に際は下血が続いたので
下血天皇と巷ではさんざんに呼ばれ続けていて
いざ死んだとなると
東京中の街街街は日の丸の弔旗でたちまち埋め尽くされて
たいていのことには参らないぼくも
あれには
心底
ゲッとなった
あの頃は下北沢が最寄りの買い物場所だったので
今にかわらぬ若者の街のあそこを
毎日廻っていたものだが
あの下北沢にして
弔旗弔旗弔旗弔旗弔旗弔旗弔旗弔旗弔旗……
で埋め尽くされた
下北沢で足りないものは渋谷に買いに出ることにしていたが
今にかわらぬ若者とカブキ者の街の
あの渋谷にして
弔旗弔旗弔旗弔旗弔旗弔旗弔旗弔旗弔旗……
だったので
そこでも
ゲッとなった
渋谷はそれでも広いものだから
埋め尽くされた感は少なかったように感じる
銀座だの東京だのとなるとまるで縁のない生活だったから
もっとも醜悪で帝国的な情景には押し潰されずに済んだ

平成という文字と音の時代は
明るさや希望のようなものとともに始まったのではなく
なによりも
あの
時代錯誤も甚だしいような弔旗の光景とともに始まったのだったし
商店や芸能や言論の世界の
どうしてそこまで?というほどの自粛ぶりの光景とともに始まった
こりゃあこの先
いいことはあるまいよ
とぼくは感じ
戦後文学者たちがかつて感じたであろうことを
今さらながらに追体験させられているような気になった
なによりショックだったのは
あんなに威勢よく知の革新を進め新たな思考を拓いていたかのようだった
構造主義者たちやポスト構造主義者たちが
なにひとつこれといった反論も皮肉も攻撃も発表せず
なぁんにも言わず
ヘンに目立たないように
そこはお勉強のできる連中らしく
いかにも賢くスマートに時局に処した風景だった
ひょっとして
太平洋戦争にあたっての小林秀雄さながらではないかと思われた
「僕は政治的には無智な一国民として事変に処した。黙って処した。それについては今は何の後悔もしていない。…この大戦争は一部の人たちの無智と野心とから起こったか、それさえなければ、起こらなかったか。どうも僕にはそんなお目出度い歴史観は持てないよ。僕は歴史の必然性というものをもっと恐ろしいものと考えている。僕は無智だから反省なぞしない。利口な奴はたんと反省してみるがいいじゃないか」
これは『近代文学』グループとの対談での1946年の小林秀雄の発言だが
まったく
なぁんだ、こいつは?
という発言だし
なにしてんだ、聞き手たちは?
というお粗末さでもある
華やかに見栄を披露しながら巧妙な逃げを打つ小林のここでの言説には
いくらでも切り込める穴があって
たとえば彼は平然と
「そんなお目出度い歴史観」などという批評言を洩らしているが
批評は立場上の差異と知とからしか出てこないのだから
聞き手はそれを「確認」したいということで聞き出せばいい
逃げや言い逃れを許してはいけない
それこそ夜が明けるまで延々と問い詰めなければいけない
そうしなければ相手の偽知は破壊できない
破壊しなければいけない小林秀雄という希代の偽物が
しかも目の前にいるわけだし
そもそも批評家が「無智だから反省なぞしない」はないわけで
無智であることをどこまでも許されないのが批評家であり
文芸家であり人文系全般の人間であって
「無智だから反省なぞしない」のなら書くのは即刻やめろ
文筆業のマイクを握ってなにかしゃべるのはやめろということだ
一般人の文芸倶楽部や読書会の発言ではないのである
一文字いくらで金が発生する業を生業としている奴が
こんな戯けた発言をして逃げられると思うなと
『近代文学』の連中もどやしつけるべきだったはずなのに
まだ小林より若く無名だった彼らも小林をダシに
名利が手に入るかもしれないと思って礼節と尊重を偽装したものだろうか
どっちにころんでもふやけた連中しかいないニッポン文壇ではある
文弱が集まるとどういう世界になるか
こういうところに本当によく露呈してくる

文字をまた記し過ぎたが
記し過ぎると人は必ず途中で読むのをやめるので効果的
しかも
現代人に読みやすい散文形体でないところがまた効果的

話を戻そう

平成という文字と音は
その始まりに置いて戦争犯罪を巧妙に逃げおおせた下血天皇の死と
緊密に結びついていて
当時の日本にいた人間たちの目に否応なく貼りついてきたあのイメージ
弔旗弔旗弔旗弔旗弔旗弔旗弔旗弔旗弔旗……
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弔旗弔旗弔旗弔旗弔旗弔旗弔旗弔旗弔旗……
そのものだったのである

まるでその22年後
東日本大震災の後でテレビCMの大自粛が始まり
ACジャパンのあれ
ポポポポ~ンばかりになったり
金子みすゞがすっかり御用詩人化して
こだまでしょうか、
いいえ、だれでも
ばかりになったりしてしまった
あれ
あれと同じように



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