2019年5月17日金曜日

そこらの柱のどこかから


  
ひさしぶりに新宿駅南口に出る

ひさしぶりといっても三週間ぶりか五週間ぶり
という程度のひさしぶり
なのだが

ひさしぶり
などと
なぜ思ったのだろう?

夕刻
あわただしくひとびとが行き来する時間帯で
小田急線ホームからの混雑する階段をのったらのったらりと上って
すぐ間近の改札になかなかたどり着けないほどの
いっそうの混雑のなかをのったらのったらりと進んで

ようやく改札を出たら
さらにいっそういっそうの(ならば「二層の」とでも言えばいいか……)
混雑がかたまりのようにぶよぶよしている
南口駅構内通路

そこで
ハッ
と思ったのだ!
今日ここで待ちあわせているのは誰だったっけ?
水谷奈美だったか?
漆原きよみだったか?
鹿園寺るりではなかったか?
それとも……

どれも
時代がかなり違う交際相手で
彼女たちが同時に新宿駅南口でわたしを待っているわけはない!
そう!
そんなことはない!
それに
水谷奈美はもう死んだではないか!
18年も前に!
漆原きよみも病死し
半年以上も経ってから人づてに死を知らされたではないか!

そんなことを思って
ようやく
今夕は誰とも待ちあわせなどしていない……
気づくのだった

それにしても
この雑踏
3年前のように
12年前のように
20年前のように
30年前のように
混雑がかたまりのようにぶよぶよしている
この南口駅構内通路

ふと気づけば
微笑みながら水谷奈美が
漆原きよみが
鹿園寺るりが
あるいは他の名前の他の時代の他の女たちが
そこらの柱のどこかから
近づいてきても
まったく
おかしくはないような




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