2019年5月3日金曜日

生蠅喰いジュワァーッ



一見すると
どこにでもいる金蠅や銀蠅のたぐいだし
黒いまるまると太った蠅も含まれるのだが
口をぽっかり開けて居眠りしていた男が
どこか高いところから落っこちた夢を見て目覚めた刹那
その間に口に入り込んでいた蠅を噛みつぶして
いままで味わったこともない美味と知ってしまったことから
蠅喰いは全世界で大ブームとなってしまった
それも干からびたものや火を通したものではだめで
生きている元気のいいやつでないと
あの絶妙な美味は味わえないときている

黒々と憎たらしい蠅も金や銀の甲冑を着たようなキラキラしたやつ
もちろん蠅である以上はジュクジュクとした内臓に
これでもかというほどのたくさんの黴菌を持っているので
生蠅喰いがどれほど危険かは言うまでもない
世界各国の保健衛生機関も行政も
生喰いの危険について口を酸っぱくして訴えているが
他のどんな食物をも凌駕するあの決定的な美味の前では
国籍や人種を問わずどんな人間も太刀打ちできない始末である
生蠅喰いをしてもなぜか病気にならない人たちもいて
それを示しながら生蠅喰いそのものは危険ではないし
蠅にはじつは病原菌など含まれていないと論文を書くような
もはや頭脳自体が絶世の美味の虜になってしまったかと
疑われるような学者たちも陸続と出て来る始末で
学会もマスコミも世論も混迷を極めている

とはいえ
あのふてぶてしいほど元気でまるまると太った蠅を
生きたままたくみに捕まえて
指でつまんで口に入れて
さあ!
さあ!
さあ!
プチッ!
ブチッ!
ブチュ!
とやって
ジュワァーッと
蠅肉汁が一気に口のなかに広がる時の得も言われぬ快感と来たら!

おお!
もちろんわたくしは生蠅喰いを称揚する!

いまさらわたくしが称揚しないでも
すでに多くの詩人や芸術家や文化人や教育者や政治家やマスコミ人
たくさんの讃辞をこの奇跡の美味に対して表明しているわけだが
かれらのほとんどが蠅の病毒に冒されて世を去ってしまった今
なぜだか未だに生き長らえているわたくしが任を継がねばと思うの
そこで
プチッ!
ブチッ!
ブチュ!
蠅肉汁ジュワァーッ!
などと
とりあえずは書いてしまいたいのだが
もちろん
こんな書きようでは
あの高雅な至高の美味をとてもではないが表現しおおせない
これから
生蠅喰い賞讃の長い長い表現探求の旅に出ることになるのであろう
ちょっと感慨深いのである




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