色好みならざらむ男はいとさうざうしく、
玉の杯の底なき心ちぞすべき……
吉田兼好『徒然草』第三段
べつになにも言いたいわけじゃない人が星くずになって
見渡すかぎり広がっている水田に降り注いだ
ヘンな夢
を見たはずだけれど
キミちゃんが勝手に鍵を開けて
まだ朝はやいうちだっていうのに踏み込んできて
朝ご飯つくったげるねェ
とか大声で言って
フライパンだの鍋だのガシャガシャ音立てて出して
盛大にさらにガシャガシャさせて作り出してくれちゃって
おいおい
もうちょっと寝かしといてくれよ
と嘆き調で台所にむかって声を出したけれど
たぶん聞こえてなくって
それでも
やっぱり眠いもんだから
うとうとしちゃって
しばらくしてから目覚めると
しーん
と静まりかえっているもんだから
あれ?
キミちゃん
もう朝ご飯つくってくれちゃって
また出ていっちゃったのかな
と思いそうになったけれど
ばかだよな、おれ
キミちゃん
もう二十年も前に死んじゃったじゃないか
がっしりした長身のバレーボール選手だったのに
大通りで車に突っ込んで来られて
頭が割れて道路に脳が転がって
死んじゃったじゃないか
ばかだよな、おれ
もう二十年も前のことなのにな
夢なんか
いまだに見ちゃってさ
キミちゃん
大好きだったんだけどな
二十年経っても
大好きなキミちゃん
夢なんか
いまだに見ちゃってさ
たぶん
これからもときどき見ちゃってさ
大好きだなァと
思い続けていくだろうな
ひとり暮らしの
ヘンなおじさんに見られてくだろうけれど
キミちゃん
大好きなキミちゃん
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