2019年10月11日金曜日

十月十日の国立劇場から歩いて帰る


  
鶴屋南北だけは見なければいけないのだから
国立劇場で
天竺徳兵衛韓噺を見て
芝居のはねたあと
小さな植物園のようになっている劇場前の庭園をすこし散策し
おや、桑の木まである
と気づいて
蚕たちはどんな匂いに惹かれるのかと
葉をちぎって磨りつぶしながら嗅いでみるが
さほど特別な匂いはしない

イギリス大使館の前を
壁ぎりぎりに歩き
日本に来ているアン王女は
ここに泊まっているのだろうかと思いながら
中をちらちら覗いたので
監視カメラからは
ちょっと不審に思われたかもしれない

代官町通りの千鳥ヶ淵側の丘の上は
毎週のウォーキングルートだが
めずらしくふつうの服すがたで
天竺徳兵衛韓噺の台本や上演資料集まで買い込んで
ちょっと重くなってしまった鞄を持って歩いてみると
松が亭々と立って
…と言いたいところだが
けっこうくねくねと太く立ち並んで
よけいに趣ふかい風景
そのなかを歩いて行くとき
あゝ、しあわせな穏やかな夕方であることよ
としみじみ思う

靖国通りから九段下界隈に出たら
どこかに寄って
お茶かコーヒーかなにか
飲んだり
うまそうなケーキやホットケーキでも注文してみたり
したいような気もするが
そのあたりからはすぐに家に着くのだから
帰宅してから
ミカンでもひとつ食べ
サッとコーヒーでも作って
さらに
ビスケットでも齧れば
十分
家では気兼ねなく食べられる
ミカンの
あのなんでもない爽やかさが
カフェやレストランでは
なかなかどうして
どうにも
得がたいものだったりするのだし

史上稀なほどの巨大な台風があさってには来るというから
ここいらの木々も
また
ずいぶん被害を受けるかもしれない
そう思いながら
ときどき足を緩めたり
立ち止まったりして
見納めのように眺め渡しておく

そろそろ穂を開き出したススキなどは
まだ大丈夫だろう
劇場からイギリス大使館あたりまでの内堀通り沿いに
何カ所か群生していたセイタカアワダチソウも
まだまだ穂が固く青かったので
どんなにすごい台風に揉まれても
まだまだ
大丈夫だろう




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