2019年12月15日日曜日

再確認



その古い家には、
どういう経緯で、しばらく滞在することになったものか…
ともかく、その午後、
小学生の良行君を児童施設と塾を兼ねた場所へやらねばならず、
週に数回通っているものだから、
彼はひとりで出かけていくので問題はないものの、
毎回、「これから行かせます」と連絡をすることになっているので、
世田谷の下丸谷にあるフルシチョフ児童園に電話をし、
「これから良行君を行かせます。五時半頃に着くと思います」
とむこうの婦人に告げると、
「あら、あなた、矢野君に似ている声ね」
と言われ、
「そうですか。矢野君ですか…」
と、知りもしない「矢野君」の空気に包まれないといけないような
ちょっと窮屈な気分になったが、
やはり知りもしないフルシチョフ児童園のご婦人の機嫌を
あまり損ねないように、
「そうですか、似ていますか…」
とさらに言うと、
「ほんとによく似ているわ。あなた、矢野君でしょ?」
とご婦人は言うので、
「そうです、矢野です」
と、けっこうサービスして言ってみたら、
「マルタ島に行ってしまった後、連絡もくれないで…」
と、ちょっと強い語気でご婦人が言うものだから、
「いろいろ事情がありまして…」
と言ってみると、
「そうでしょう。わかるわ」
とすんなり受止めてくれたので、ちょっとホッとして、
「でも、また、旅に出ます。今度はペリリュー島に…」
と言いかけると、急に声が男の声にかわって、
「ふふふ、なに言ってんだ。俺が矢野さ。おまえはニセモノの矢野だろ?」
と言ってきたので、ちょっと慌てて、
「おまえこそなに言ってんだ。ぼくこそ本物だ」
と強い調子で言うと、
「はい。わかりました。良行君、五時半頃ですね」
と急にご婦人の声に戻って言うものだから、
「じゃあ、よろしくお願いします」
と、こちらも親しみ深く、明朗な口調に戻って言ってしまった。
ほんとにいい加減なものだが、
いい加減にその場その場をやり過ごして、地上体験など、
過ぎ越していけばいいのだった、と、
またまた、再確認した次第なのでありましたな。




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