2020年3月8日日曜日

何十年もして日東紅茶に行き着いちゃったんだよと




Feel the city breaking and everybody shaking,
And we’re staying alive and staying alive
         Bee Gees  Staying alive



紅茶が好きになってから
もう何十年ものあいだ
次々いろいろな店のものを試しつづけ
めずらしいものも
けっこう高いものも
だいたいは味わってきてみて
時間をかけずにサッと淹れるときも
ちょっと高めのティーバッグに
だいたいは決まってきていた

ところが数週間前
いつものティーバッグを買いに
ちょっと離れた店に行こうにも時間がとれず
近所のスーパーで日東紅茶を買った
たぶん何十年も飲んでいない
どこのスーパーにもありそうな
ありふれた安い紅茶の代表格だが
そんな日東紅茶のうちでも安いほうを
どうせすぐに飲んでしまうからと
買ってみることにした

これがうまかったのだ、驚いたことに
ひとくち口に含んでみると
まぁこんなものだろうかなという程度だが
ふたくち三くち啜るうち
ほのかな甘みや味の層が感じられてきて
あゝ、みごとなブレンドだと気づかされる
急いでサッと淹れたいとき用には
十二分すぎるほどのうまさで
こんなものがどこのスーパーにも
安く売られていたことに驚かされた

紅茶にはうるさいんだぞなどと
へんに自己顕示してみたいわけではないが
何十年もこだわって飲んできてみて
結果として日本のどこのスーパーにもある
日東紅茶DAY&DAYの味に驚いてしまうなんて
ちょっとおもしろいとは思ってしまう
なんだか『青い鳥』のお話のようで
もとめていた最良のものは
ごく身近にずっとあったのでした
とでもいうようなオチか

朝はコーヒーと決めていた20代のある頃
胃にもたれるような感じになって
朝だけは紅茶を飲むことにしようと変えたとき
その最初の購入先はパリのマドレーヌ広場の
有名な食料品店エディアール本店で
アールグレイのお茶を二缶ほど買った
わざわざ気取ってそんな店に行ったのではなく
フランス人たち何人かから
そこの紅茶がうまいからと連れて行かれて
いろいろ選んだあげくに買ってみたのだ

そのころ知りあいだったイギリス人や
アイルランド人からも
紅茶ならイギリスよりフランスのほうが
おいしくなっちゃったんだよと勧められて
フランスのパリのいろいろな店のものを
そのあと買うようにしてみていたが
なるほどマリアージュ兄弟の店のは味が濃くて
ちょっとすごいかなと思わされたが
ほかのものはどうってことないと思えた

ともあれ自らすすんでの紅茶とのつきあいは
そんなふうに始まったわけで
コーヒーばかりを好んでいたごく若い頃の終わりは
マドレーヌ広場のあのエディアール本店の
赤と黒の庇の風景で印象づけられている
あのときマドレーヌ広場に行けと勧めた人たちも
いっしょに行ってくれた人ももういなくて
何十年もして日東紅茶に行き着いちゃったんだよ
と冗談っぽく伝えてみたく思っても
もうだれも伝えるべき人のいない今の此岸
ひとりまた日東紅茶のティーバッグを出して
湯のなかで軽くつんつんつんつんさせながら
色どりをもうちょっと華やかにしようとしている




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