2020年3月14日土曜日

言語ウイルスおよび言語としての生物学上のウイルス




言語は宇宙からのウイルスである
という
アメリカの異端的な作家ウィリアム・バロウズの考えは
人間を宿主と見た上で
ウイルスの構造と機能を見れば妥当なものに思える
(異端とはもちろん真の主流という意味である)

細胞を持たず遺伝子情報のみを持つウイルスは
着地した生体の細胞に遺伝子を注入し
その他者の細胞のなかで遺伝子をコピーし
コピーを包んだ第二世代ウイルスを作って
着地した生体の細胞から放出し
べつの細胞へと着地させるべく旅立たせる

たしかに言語も細胞を持たず遺伝子情報のみである
言語にとっての着地すべき細胞は人間の意識ということになる
意識のうちの言語に反応する部位なので言語意識と呼んでおいてもよい
言語は意識の中に侵入し遺伝子を注入する
意識は言語の遺伝子に感染する
意識は感染させられた後に言語への反応を形成するが
この反応のありかたはウイルスにおける遺伝子のコピーよりは多様
単なるコピーと呼びうるような記憶形成や
遺伝子の変奏と呼べそうな観念や思念の形成や
複数の文による思いの形成などがあり得る
いずれにしても言語感染によってもたらされた意識変容ではあり
その人間の意識は二度と感染以前に戻ることはできなくなる
言語をウイルスと見なしたバロウズの発想は正しい

言語がどのように発達するか
それを人工的に実験した言語学者サイモン・カービーの
「言語自体が、進化しようとする強い方向性を持っている。
「それは後世に伝えられることを望み、そのための方法を見つけ出す。
「われわれはその宿主なのだ
という見解を思い出しておいてもよい
ちょっと言語寄りに楽天的な見方をし過ぎているところが
微笑ましいが。
言語学者というのはだいたい言語に甘いのである
甘ちゃんなのである
ともあれ
カービーのこの見解を借りつつ
詩歌も小説も演説も演劇の台詞も
論文も遺言書も辞世の歌も
新聞も誹謗中傷文書も
トイレの落書きも
全世界のSNS内部の厖大な書き込みも
それらの行為を行っているつもりの人間たちの意識も
言語ウイルスが遺伝子を伝えようとするための舟
であるに過ぎず
おそらくそれ以上の意味も価値も全くない
とパラフレーズしておくのは
たぶん
間違いではない

(ごめんね、
(わたし、
(人類を自称するみなさんのいわゆる“文化”に対して
(徹底的なニヒリストなので

さて

しかし
言語にとって人間意識も同様にウイルスであろう
言語は意識に遺伝子を侵入させ感染を発生させた瞬間から
意識によってみずからの遺伝子の逆変容を迫られる
人間の意識は正確なコピー能力を持たず
あらゆるコピーは余計な変容や誤差、誤解を含んだミスコピーとなる
その人間の意識から言語の遺伝子コピーが旅立っていく際には
言語はべつの遺伝子を持ったウイルスになってしまっている

このように言語ウイルスを祖述してみるうち
生物学上のウイルスもまたじつは言語なのではないのか
との夢想へわたしは導かれる
新型コロナウイルスが出現して騒がれるようになって以来じつは
わたしはこの夢想に胸をいっぱいにされ感動の日々を送っているのだ!
科学は遅々とした緻密な論述の積み重ねを要求される領域なので
このような夢想はあまりに粗い無意味な奇想としか見られないだろうが
しかしフィリップ・ベルの論文(2001*によって
DNAウイルスそのものが真核生物の細胞核の起源となったのではないか
との仮説が提出されている現在
原核生物よ、真核生物をつくれ
原核生物よ、真核生物たれ
との情報を伝えるべくウイルスは原核生物に侵入したのではなかったか

そんな細胞史の原初の情景に
少年の頃に立ち戻ったように胸をわくわくさせて
わたしは想像の望遠鏡や顕微鏡の先を向けようとしている!
自然の細部や構造や
法則や例外や
秩序正しいと見える現象も乱れた法則外と見える現象も
整った音や波形も乱調の音や波形も
どれも
楽しく興味深く見え聞こえ感じられた心が
新型コロナウィルスのおかげで蘇ってきている!


*Bell PJL(2001) Viral eukaryogenesis : was the ancestor of the nucleus a comlex DNA virus? J.Mol.Evol.53,251-256.




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